年金から医療費を捻出?

今朝(5月19日)朝日新聞朝刊「ウォッチ」というコラムで「『膨らむ医療費を賄うため、場合によっては年金の財源に手をつけても・・・・』。医師達の代表がそんな考え方をしていると知ったら、あなたはどう思うだろうか。」という記事があった。

「年金給付と医療給付とでは成り立ちも意味合いも異なるが、社会保障全体で見れば年金積立金という財源が確保されていることは認識しておきたい。今年3月に日本医師会が公表した医療の将来像『グランドデザイン2007』の一節だ。素直に読めば『年金の積立金を医療費に流用することもありうる』と言う意味に取れる。医師会の幹部も『国家財政のあり方を徹底的に見直した後で』という条件付きながら『将来的には検討の余地がある』と、話す。」(朝日新聞07年5月19日朝刊「ウォッチ」太田啓之)

さる4月1日、日本医師会は代議員会で「グランドデザイン2007-国民が安心できる最善の医療を目指して-」を公表している。早速、日医サイトでレポートファイルを入手の上、ざっと目を通す。内容は以下の通り。

■第1章 あるべき医療の実現に向けて
■第2章 国民のニーズにこたえる医療提供体制
■第3章 医療保険制度のあり方
■第4章 社会保障財源の可能性について

朝日新聞が取り上げたのは、第4章「社会保障財源の可能性について」についてである。目下、医療費削減は政府の至上命題になっている。財政逼迫の折、誰も支出削減について異を唱える者はない。国際的にも、主要先進国において医療費削減の必要性は共通認識となっている。日本のような国家統制医療制度の場合、この制度維持を前提として医療費を確保し、さらに拡大しようとすれば、この日医レポートのような議論が医療業界から出てくることは意外ではない。

だが、社会保障費を丼勘定して年金積立金から医療費を掠め取ろうという発想が、まず誰の支持も獲得できないのではないか。たしかに医療費削減にも限度があり、財源の確保は必要だろう。しかしそれは、統制経済制度としての医療を根本的に見直すところまで選択の幅を広げて検討すべきことだと思われる。つまり、一定の「市場化」まで視野においた抜本的な議論が必要だ。そしてそれは、「同じ社会保障費」などという安直な「解釈」で財源を論じられてはたまらないのである。

またこの「グランドデザイン2007」だが、まず第一章の「あるべき医療・・・・」という言葉に目がいった。「日医が考える『あるべき医療』とは?」とこの第一章を注意して読んだが、結局、「あるべき医療」について何も具体的な言及は無しである。今日の医療を語る時、「あるべき」などと「べき」論を語る状況ではないと当方は考えている。スコラ論議は不要なのだ。しかし「あるべき医療」などと大上段に出るなら、それ相応の「あるべき医療」を提示してもらいたいものだ。今日の状況において「理念無し」レポートは、それはそれで良いと思う。救いようがないのは「理念がないのに、理念があるように見せかけているレポート」である。

またこのレポートによると、医療費確保はどうやら「医療の質」を担保するためであるらしい。その「医療の質」の最もわかりやすいアウトカム指標について、このレポート第一章では次のように記されている。

「一方で、死亡率や術後合併症の有無、患者や家族の診療に対する満足度を指標とする成果(アウトカム)の評価は、その構成要因があまりに多様であるため、いまだ定まったものはない。恐らく国民がもっとも関心を寄せているのは、医療を受けた結果がどうなるのかという点、つまり、成果の評価であろうが、現在はそれを判断する手立てを持てずにいる。」(同レポート12ページ)

では欧米で、すでに10年前からに進められ公表されているアウトカム指標について、このレポート筆者はどのように認識しているのか。アウトカムの共通指標化と消費者に利用されやすい公開の仕方をめぐって、欧米ではさまざまに試行されているが、日本ではとんと聞かぬ。机の上の議論ではなく、実際にどのような試行を実践しているのか?。

「医療の質の確保=医療費の確保」という主張であるにもかかわらず、納得させる説得性は薄弱だ。まして年金財源の医療費化など、国民の支持を得られるのだろうか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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