Health2.0ムーブメントの中心的理論家とも目されるスコット・シュリーブ医師によるHealth2.0の定義が今年1月に公表された。下記はその翻訳である。
Health2.0定義
医療におけるすべての構成員(患者、医師、医療提供者、支払い者)が、医療価値(アウトカム、価格)に焦点を合わせ、医療全体における状態改善の競争を、安全性、効率性、そして医療の質を改善する触媒として利用する、医療の新しいコンセプトである。
もっと良い翻訳もあるだろうが、大意はこんなところではないかと思う。いずれにせよ、この「定義」の骨格を形成する中心概念が、「医療価値」と「競争」であることは明瞭だろう。この二つとも、作者シュリーブ医師の言によれば、前回も触れたマイケル・E・ポーターとマイケル・テイスバーグによる「医療再定義」から導き出された概念であるようだ。
「価値と競争」というと、日本ではなにか医療とは似つかわしくない言葉のような感じがする。マーケティングや経営という観点から医療が論じられること自体が、非常に少ないからだろう。特に「競争」を医療変革のコンセプトに持ってくることが、日本では非常に新鮮に見えるのだ。
医療変革といったが、上の「Health2.0定義」は、2.0という言葉から想起される「Web2.0の医療への導入」という意味からは遠く、まさに医療変革を目指すムーブメントとして「定義」されているところが注目される。
われわれはWeb闘病記をWeb2.0で言うところのUGMと捉え、TOBYOという新しいサービスを開発している。ある意味ではWeb2.0が先行概念としてあり、それを医療の世界に持ち込もうという図式を描いていたといえる。しかし、シュリーブが提起するHealth2.0は、より根底的な改革理念なのである。さらに、Health2.0とは、新しい医療そのものへ向かうムーブメントでもあるのだ。
このような背景には米国医療が改革期にあり、連邦政府、州政府、そして医療界でさまざまな具体的試行が進められていること。そしてそれに同時平行して、ウェブ進化を軸とする情報技術革命が生起していること。この二つがあるとシュリーブは分析している。
はじめにわれわれが想定していたのは、このような単純な式であった。しかしこれでは不十分なのだ。Health2.0は医療全体を変革する視点を獲得しようとしている。「価値と競争」という「Health1.0」時代にはなかった新しいコンセプトを医療に持ち込もうとしてる。われわれもまた、このムーブメントに参加していきたいと考えている。
三宅 啓 INITIATIVE INC.