医療IT化と銀行: MBP(メディカル・バンク・プロジェクト)

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活発化する銀行による医療IT市場開発

「あなたは銀行のWebサイトで、毎月の支払いを処理している。それが終わってから、最新のあなたの医療情報をクリックしている・・・・・」。こんなことが想像できるだろうか。医療情報サービスとオンライン・バンキングが一体化したサービスである。医療IT化の動向を注視しているのはITベンダーだけではない。米国の銀行業界は、この新たな市場へ参入する研究プロジェクトを開始した。

MBP(Medical Bank Project)

ジョン・カシージャスが2001年にMBPを創立したとき、彼のビジョンは医療における諸業務をIT化で効率化しようというものであった。それは今日で言うところのEHRに近いアイデアである。そのとき以来、MBPはさまざまな変転を経験してきた。EHR市場だけをとって見ても、ITベンダーをはじめさまざまな競争相手が登場したからだ。

今日ではMBPは多数のメンバーを獲得しており、それは銀行、金融サービス企業から医療機関、ITベンダー、産業コンサルタントに至るまでの広がりを持っている。

「医療業界は、銀行業界が30年かかって成し遂げたものを、10年で変えたいと望んでいる。われわれは医療を変革するための結合組織として利用できるインフラを持っている。銀行は既に情報仲介業として活動することを準備できている。」とMBPは言う。

銀行が医療ITエンジンに変身?

たしかに銀行は、他業界に先駆けて70年代から積極的なIT投資をおこない、すでに堅牢なオンライン・バンキング・システムやEDIシステムを開発済みである。その既に存在する銀行システムを、医療システムのインフラとして利用しようというのがMBPの考え方である。

医療情報を扱うEHRやPHRに対し、システムの安全性、信頼性、セキュリティなどが常に問題になるが、銀行システムはこれまでの実績によってこれらの懸念を払拭できるとされる。

医療費削減に効果?

「人々が見落としているのは、ヘルスプラン(健康保険)が通常できることと医療機関が引き受けることの間のギャップである。もしも病院や医療機関が(電子データ変換の)チームを持っていなかったら、彼らは直接電子取引ができない。このことは取引パートナーの間に調整活動が必要であることを示している。」

すなわち、ヘルスプラン(支払い者)と医療提供者の間で、銀行は取引決済の仲介役を果たそうというのが、MBPによる二番目の医療市場参入の考え方である。これは銀行の通常業務の延長としてわかりやすい。

MBPのメンバーであるPNC銀行は、500以上の病院に、月350万件の医療支払い業務を処理している。先日、PNC銀行は調査結果を公表しているが、それによると、もっと適切な請求・送金プロセスがあれば、ペイヤーと医療機関の三分の一は、規模にもよるが、年に少なくとも100万ドルから1000万ドルの節約をすることが出来るという。

MBPはヘルスプランと医療機関の間で請求・支払い業務の最適化をはかり、医療コストの節減に寄与することも表明している。

「信用」が競争力の源泉

米国では銀行が医療専用貯蓄口座ビジネスを展開しているが、これを医療情報提供サービスに結びつけることもMBPでは考えているようだ。さらに医療機関のEHRに銀行システムを接続したり、独自のPHRを構想したり、さまざまな可能性が検討されている。

これら消費者向けサービスや医療機関ITシステム連携などへ、銀行が参入する際の優位性は「銀行としての信用」であるとされている。リテール・バンクとして長年の消費者との取引実績と信用、あるいは地域コミュニティにおける病院と同格の「信用機関」であるというイメージも競争優位点であると言う。

現在、「Value in health」と呼ばれるMBPのプロジェクトが開始されている。これはGM、フォード、クライスラーが参加するAIAG(The Automotive Industry Action Group)とのコラボレーション活動である。このプロジェクトでは医療情報における質の評価指標を確立することもめざしているようだ。

最後に、医療IT市場参入への銀行の競争優位を要約しておく。

・銀行は既に安全でセキュアーな情報システムを持っている
・銀行は医療業界の決済業務を効率化できるスキルがある
・銀行が持っている「信用」資源を活用できる


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