医療機関のウェブサイトは何を語っているか

来月から「がん対策基本法」がスタートします。マスメディアも取り上げ始めましたが、たとえば日経本紙で「がん医療新時代」と題された特集シリーズが今週から始まりました。今朝の記事では「患者の声ようやく意識」との見出しで、国立がんセンターが取り上げられています。

国立がんセンターは昨年10月から「がん対策情報センター・がん情報サービス」というウェブサイトを新たに開設しました。名前が長ったらしく、いかにも「お役所仕事」が予感されるサイトでありますが、早速実際に行って見ると、やはり予感を裏切らない出来栄えでありました。期待はしていませんでした。「期待は失望の母」という名言もありますから。

ところで私事ながら、昨秋10月、家族が胃がん手術で入院し、術後経過が思わしくないので関連情報を得ようとこの「がん対策情報センター・がん情報サービス」サイトを見たのです。するとネーミングから動線、デザイン、レイアウト、コンテンツとお粗末なつくりであり、明らかにこれは「低予算、少人数スタッフ」で、しかも短期日の「やっつけ」で制作されたことは明白だな、との印象をその時強く持ちました。

日経の記事を読んでそのことを思い出し、その後どう改善されているかを確認しに国立がんセンター・サイトへ行ったわけですが、昨秋と比べほとんど改善の跡は認められませんでした。そして、いくつか関連情報を検索して見ると、次のような驚くべき事実がわかりました。

ウェブサイト制作費は「がん対策情報センター」予算の1%

政府は2005年5月に「がん対策推進本部」を設置し、同年8月には総額約16億円にのぼる「がん対策情報センター」06年度予算の骨格が決められました。しかし、最終的に決定した予算では、患者、生活者向けの医療情報提供サイト制作予算は、なんと予算全体のわずか1%。1,522万円に過ぎなかったのです。さらにこの4月からの平成19年度予算の概算要求でも、他の費目は増額されているのに、患者向けコンテンツ制作費は変わりなしです。

では、「がん対策情報センター」予算の大半は一体どこへ使われているのでしょうか。ほとんどが、システムとハードウエアです。この中には「TV会議システム経費」(?)として平成18年度1億5千万円、平成19年度1億9千万円が計上されているのです。かくも高額なる「TV会議システム」なるもの。一体どのようなシステムなのか不明ですが、直接、患者が使うものではないようです。

これにはさすがに政府閣僚経験者もあきれはて、「患者のための情報提供ということにかこつけて、自分たちがやりたいことをやっているのではないか」と国立がんセンター幹部を詰問したと報じられています。
「10月1日オープン、「がん対策情報センター」の“真実”」がんナビ、日経BP社)

医療IT化は誰のものか?

再度、問わねばなりません。「医療IT化は誰のものか?」と。たしかにEMR、EHRはじめ医療機関側の「バックヤードの情報化」は、現場の効率を上げミスを減少させるために必要なことです。しかし、05年から整備されてきた一連のがん対策諸政策は、本来、患者が求めるがん情報提供体制の整備など、「がん患者中心の医療政策」という基本性格を持つものであったはずです。

そうであれば「患者向け情報サイト制作費--1%」というこの予算構成は、一体何を意味しているのでしょうか?。というよりも、何よりもウェブサイトが雄弁に事実を語っています。海外のたとえばメイヨークリニックのような医療機関サイトと比べ、この「国立」医療機関サイトのいかに貧弱なことか。赤面してしまうほどです。

日本の医療機関ウェブサイトの劣悪な実態

国立がんセンターのみならず日本の医療機関は、少しはウェブサイトの重要性を認識すべきです。現状は、どの医療機関も「ウェブ上に立てた広告看板」程度の認識しかないとしか思えません。なぜなら、「患者とコミュニケーションしよう」というコミュニケーション・マインドが決定的に欠落しており、「ケア」の配慮を欠き、医療情報提供に不熱心であり、患者教育などの活動を無視しているからです。

たいそうな「院長あいさつ、理事長あいさつ」など、何の意味があるのでしょうか?。麗々しくももったいぶった「理念」など、一体、患者に何を語るのでしょうか?。トップページに「医師、看護師、大募集!」などと大書きして、患者にとって関係があるのですか?。これでは患者不在、患者無視といわれても仕方ないでしょう。

日本でも10年ほど前から、「インターネット医療」などと語られてきました。しかし、そのうちの最も基本的な情報拠点の一つであるはずの医療機関サイトは、10年たってもまったく改善もされず、進化もなく、「低予算の看板」という地位に甘んじているのです。本来はもっと有用な医療情報拠点として機能する能力をもちながら、なんの活用もされずに放置されています。そのことを国立がんセンター「がん対策情報センター・がん情報サービス」サイトは、われわれに、シンボリックに示しているのです。

良くも悪くも、医療機関ウェブサイトは、その医療機関の患者観、サービス観をダイレクトに語っているのです。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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