闘病記と読者ニーズ

ReadWriteWeb

年初のエントリーでTOBYOの基本サービスについて、少し触れておきました。現在アルファ版を準備していますが、広くお試しいただくベータ版の段階で、TOBYOが提供できる機能は三つあります。

  1. 闘病記を探す
  2. 闘病情報を探す
  3. みんなで闘病情報を整理する

この三つのうち、最後の「3.みんなで闘病情報を整理する」は少し性格が違いますが、1と2は闘病記に対するユーザー(つまり闘病者)のニーズを考えた結果、必要だろうと判断した機能です。ではそのユーザーニーズとはどういうものでしょうか。

Web上にこれまで多数作られてきた闘病記というドキュメントの性格について、このブログで、これまでいくつかの視点から考察してきました。どちらかと言えば、闘病記の作者側のモチーフについていくつか考えをまとめてきたわけですが、逆に闘病記の読者(ユーザー)は闘病記をどのように捉え、そこに何を期待し、何を求めているのでしょうか。

リアルストーリーに対するニーズ
そこには大きく二つのニーズが存在するのではないかと、私達は考えました。一つは、これは「本」になったリアル闘病記の場合とおそらく同じだと思うのですが、「他者の闘病体験を読むことによって、生きる勇気を得たい。自己を確認したい。」というものではないでしょうか。 発症から始まって検査、診断、治療など一連のプロセスを、他者は何を思い、何に希望を託し、どのように生き抜いたか。これら一連のかけがえのないリアルストーリーを読むことによって、そこから自分が病気と立ち向かうための勇気をもらう。自分と同じような境遇の他者に共感し、「一人ではないんだ」と自己確認する。このような切実なニーズが「闘病記を読む」行為を支えていると思われます。

つまりこれは、「一冊の本を読む行為」に対する欲求といえます。断片的な記事ではなく、また学問的な医学情報でもなく、手術結果データ集でも、感動もののフィクションでもありません。そうではなく、「実際に生きられたストーリー」であり、「一冊の本」というボリューム感が求められているのです。さらには、そのストーリーが、その主人公自身の肉声で語られているということも重要なポイントかもしれません。実際、闘病記を読むと、心を激しく揺さぶるような、胸を鷲づかみにされるような、そのような強い言葉やメッセージが横溢していることに驚きます。

クチコミ情報ソースに対するニーズ

次に二つ目のニーズとして、闘病活動を展開するために必要な具体情報を闘病記に求めている、ということが指摘できます。これは特定の病院や医療者に対する入院体験者の評価、医療費と保険適用、治療法の選択とその結果など、具体的に患者として知りたいけれど、なかなか一般には公表されていない情報です。

従来、これらの具体情報については、クチコミという細い情報チャネルしかなかったのです。「Aという病院、またBという病院 は、実際のところどうなんだろうか?」とどの闘病者も思い悩むわけですが、昨今話題になった病院アンケート本や評価調査本などでは、数値化されたデータを見せられるばかりで、「じゃ具体的に現実はどうなんだ」という問いに答えてくれません。たとえ「手術成功率85%」というデータが公表されていたとしても、「一回性の人生を生きている」という闘病者側のホンネ的心情から見て、それらのデータはなんとも評価しにくいのです。それよりも、自分と同じ病気の人がその病院体験をどう評価しているかのほうが、自分の闘病生活にとって具体的な手応えのある情報なのです。

これまでクチコミでしか知りようのなかったこれらの情報は、だれもがWebを手軽に利用するようになって、Web上の闘病記として大量にアップされているのです。しかし、中心もなく分散して散在しているわけで、それらをWeb中から効率的に集めることは、非常に骨の折れることです。以前のエントリーで書いたように、私達はこれらWeb上に散在する闘病体験を、一つの大きな闘病体験の情報集合体として見ようと考えたのです。そして、これらをさらに大きな「百科事典」みたいに利用することができたら、それは闘病者に、実際に何かを判断する際の具体情報として利用してもらえるだろうと考えたのです。

以上のように、闘病者側から見ると闘病記には、少なくとも二つの側面があります。「実際に生きられたストーリー」という側面と、「実際に役立つ闘病事典」という側面です。別の言い方をすると、闘病記には二つのニーズがあるということであり、TOBYOは最低限、この二つのニーズに充分に対応するツールでなければならないと考えています。

(Photo: Leigh Blackall , Networked Learning)
三宅 啓  INITIATIVE INC.


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