闘病記の考察3: Web闘病記の特徴

自己表現としての闘病記

前回、「まるごと闘病記」と「パート闘病記」という分け方ができると言いましたが、実はこの二つの他にもう一つ、「自己表現メディアの闘病記」とでも言うべきスタイルがあるのです。これは文字通り、詩、エッセー、小説、楽曲などで自己を表現するもので、通常の闘病記とは少し違ったものです。例えば、病気で全身麻痺となり、寝たきり生活を余儀なくされた人でも、手の指やつま先が部分的に動かせる場合があります。そのような闘病者が、専用入力インターフェースを使って、自分の思いや自分が今ここに存在することを、Webに書く。身体の自由を奪われても、それを入力インターフェースという技術で乗り越え、自分を表現し、Webを通して社会へ向け発信しているのです。このような闘病記もたくさん存在し、そこで詩やエッセーなど作品が作られているのです。

Web闘病記の特徴とメリット

このように見てきただけでも、Web上の闘病記が、かなり多彩で多様な豊かさを示していることがわかるでしょう。そして、これらのWeb闘病記の価値は、闘病者の間では広く認められていますが、一般にはまださしたる評価も得られていないという現実があります。その一方では、書籍として出版された闘病記には、医療界の研究者からも評価する動きがあります。同じ闘病記でありながら、この違いは何に由来するのか。

そこには、玉石混淆のUGCに対する戸惑い、あるいは偏見、あるいは先入観というものがあるのでしょう。しかし、「コマンド&コントロール」の20世紀が終わり、新しい時代が既に始まっていることに思い至れば、新しい目でポジティブにWeb闘病記を評価していくべきでしょう。そのためには、Web闘病記がどんな特徴、メリットを持っているかを見るのが近道です。

  • 誰でも、自由に、簡単に、安価に、闘病記を作り配信できる。
  • Web環境があれば、病室からでも、どこからでも書ける。
  • 双方向でリアルタイムのコミュニケーションが生まれ、コミュニティができる。
  • 文章、写真、図表、画像、ビデオ、音声など、多種多彩で楽しい表現が可能。
  • 身体的困難さにかかわらず、自己と社会とのコミットメント、コミュニケーションをエンパワーできる。

まずWeb闘病記の作り手から見ると、以上のような特徴、メリットを享受できます。さらに読者、受け手から見ると次のポイントがあげられるでしょう。

  • いつでも、簡単に、安価に、自分の闘病生活に役立つ、生きた情報を入手できる。
  • 医療機関、治療方法、費用などの具体的な評価情報や実態を知ることができる。
  • なによりも、自分と同じ「闘病者の目線」で書かれているから、わかりやすいし、共感できる。
  • 質問など、すぐに作者に問い合わせることができる。情報交換できる。
  • Web上の医療情報を共有し活用できる

ざっと思いつくままに列挙してみると、以上のようなリストができました。まだ他にもあるでしょう。それから、作者と読者の関係ですが、これもWeb上では、マスメディアのような固定した関係ではありません。情報の受け手は、次に情報の送り手になり、さらに「送り手-受け手」を同時に果たすような、そのような関係。

闘病バトンタッチ

Web闘病記の「はじめに」などと題された自己紹介ページを読むと、「かつて、自分が病気を告知されたとき、Webで必死に情報を探し、その時、たくさんの闘病記に教えられ、勇気を貰った。今度は、自分が他の人に自分の経験を伝える番だ。」という趣旨の文章をたくさん目にします。 これらを読んでいる内に、何か「闘病体験のバトンタッチ」のようなものが存在しているというイメージが湧いてきました。闘病者から闘病者へ、他人の体験から自己の体験へ、そして自己の体験を他人へ。このような、闘病バトンタッチレースがWebで続いている事実を、目撃したような気がしたのです。

三宅 啓   INITIATIVE INC.


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