闘病記の考察2: さまざまなスタイル 

Web上の闘病記をそのスタイルから見ると、個人ホームページとブログサイトに分けられます。個人ホームページとして作られた闘病記の起源は、インターネット初期にまで遡ることができ、これまで大手ポータルサイトの無料サービスを利用するケースが多かったようです。もちろん個人で独自ドメインを取得し、本格的に制作された個人ホームページも少なくありません。

やはり、近年はブログでつくられた闘病記の方が増加しています。ホームページより簡単に構築できて、メンテも手間いらず、という点が評価されているのでしょうか。 この場合、無料ブログサービスを利用するケースがほとんどです。それから、中間形態として個人ホームページとブログを合わせたもの、表紙は個人ホームページの体裁で、日々の闘病記録はブログへリンク、というスタイルも多いです。

個人ホームページの闘病記

個人ホームページとして作られた闘病記は、驚くほど網羅的に闘病生活をカバーしており、情報量も多いです。たとえば、自分や家族の検査結果数値を表やグラフで掲出するのは当たり前で、服用している薬品の写真、病院で出される食事の写真から、医療費明細に至るまで、非常に詳細な情報が文章、図表、写真、動画などを使って多彩に記録されています。自分の手術の実況ビデオを公開している闘病記サイトもあるくらいです。こうなると、「個人情報、ここまで出して大丈夫?」と、こちらが心配するほどです。

ブログ闘病記

対してブログ闘病記ですが、こちらは、やはり多彩さでは個人ホームページにかないません。「文章と写真で日記形式」という形がほとんどです。表現の枠が決まっているので、その中で、それぞれの自分らしさをいかに表現するかがポイントになるわけです。 それに、毎日の闘病記録が文字情報として日付順に並んでいくわけですから、読者としては、自分の欲しい情報に直接たどり着けないという不便を味わうこともあります。「1ページ目から最新ページまで、順に読んでいく」ことを強いられるので、つまりこれは、書籍の闘病記と近いと言えるかも知れません。その際、適切にカテゴリーが設定され、情報ページがうまく分類されているか、ブログ内検索窓があると助かるのですが、ベタでページが日付順に配列されていると、読者としては困るのです。

Book Reading

とは言え、闘病記読者として、どのようにWeb闘病記を利用するか、その目的によって、合うものと合わないものがあるような気がします。「病院の評価、治療法や薬の体験、費用などの情報を入手したい」など、あらかじめ探したい情報が明確になっている場合。これは「百科事典をひく」というような行為に似ているかも知れません。また、「闘病者の体験や言葉によって、勇気を貰いたい。」などという 読者の場合、むしろ「一冊の本を読む」という行為に近いのではないでしょうか。利用目的によって、読者側の闘病記にたいする見方が変わってくるのです。いずれまた説明しますが、私たちは、TOBYO開発の上で、このような利用者側のニーズやオケージョンを、かなり重視して検討しました。

「まるごと闘病記」と「パート闘病記」

個人ホームページとブログ、およびその折衷というように、まず形式的な分類がWeb闘病記にあてはまります。それから次に、その内容構成の差違により、いくつかのタイプが存在します。 これは個人ホームページであろうと、またブログであろうと関係なく、単純に言えば、「闘病体験情報が、そのサイトの中で、どのくらいの分量を占めるか」という問題です。「100%まるごと闘病体験」もあれば、「闘病体験は全体の10%くらい、他は趣味や身辺雑記」(パート闘病記)というものもあります。本来の観点からすれば、「『まるごと闘病記』が闘病記とされるべきであり、『パート闘病記』は、闘病記とは言えない。」とするのが正しいのかも知れません。

現に私たちも、ある時期、そのように考えていたこともありました。 しかし、闘病者は24時間、闘病だけを考えている存在でしょうか。食事や散歩を愉しんだり、家族や友人と会話したり、音楽を聴いたり、本を読んだり、テレビを見たり、空想したり・・・・・・。これらすべてのこと全体が、人間の生活であり、闘病はむしろその中の一部分です。

「患者は病気(illness)に全人格的に関わっている。医者は逆に疾患(disease)を持った存在としてしか患者を見ていない。」(「ペイシャンツ・アイズ」マーガレット・ガータイス他 日経BP)というピッカー研究所「患者中心医療」の考え方が思い起こされました。「闘病者の全人格性」という観点から見ると、闘病体験とともに、趣味や身辺雑記が書かれた生活手記は、むしろ自然で違和感はありません。まさに全人格性を記録したドキュメントと言えるでしょう。その意味で、このような「パート闘病記」も無視できない存在だと、私たちは考えているわけです。

三宅 啓   INITIATIVE INC.


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