ソーシャルメディアのデータ利用について思うこと

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もう旧聞に属するが、昨秋公開され話題となったエスエス製薬の「カゼミル」。直近24時間にツイートされたTwitterのデータから、「風邪」、「カゼ」、「かぜ」など風邪関連ワード、そして「のど」、「鼻水」、「さむけ」、「頭痛」、「せき」、「熱」など症状関連ワードを抽出し、ユーザーが公開している現在地データを参照した上で、都道府県単位で風邪の流行状況をアニメーションによって可視化している。

たしかにアイデアもアニメーションも面白いのだが、見せ物にしてしまっては、何かもったいない気もする。せっかくリアルタイム医療情報と位置情報を把握しているのだから、たとえば「全国かぜ予報」みたいな、生活者の健康管理に役立つようなサービスへ展開できるかも知れないからだ。それに全国診療所の風邪患者来院データなどと合わせると、もっと生活に役立つサービスに精緻化できるかもしれない。

このケースでわかることは、ツイートのリアルタイムデータから医療情報を抽出することが技術的に可能だとして、次にそれをどのように実際に有効活用するかという段のノウハウを私達はまだ持っていないということだ。たとえばこれを、従来のレガシー調査の延長で考えていくことはとても容易なのだが、この「かぜみる」のような斬新な発想に決して到達することはないような気がする。

私達のdimensionsもまた同様である。いろいろな人とディスカッションをするうちにわかってきたのだが、どうやら従来のレガシー調査の延長線上にdimensionsを置いてしまうのは、間違いなのではないかということだ。ソーシャルメディア上に大量に公開された患者体験を、どのように活用するかについて、まだ私達はようやくその入り口に立っているような状態である。

昨日もあるリサーチャーの方とディスカッションをしていて、従来のレガシー調査のワークフローにdimesionsを無理矢理当て嵌めるような話しになり、何か窮屈な思いを禁じ得なかった。お決まりの「調査目的、調査設計、調査実施、集計分析、報告書作成、報告納品」みたいな特定の問題解決型調査とdimensinsは違うのだが、そこを理解してもらうのが意外に難しい。特に報告書のような成果物作成が、dimensionsにはあまり似つかわしくない。ファクト・ファインディング・ツール、ソーシャル・リスニング・ツールあるいはセンサーとかモニタリングとか説明をしても、結局、「で、レポーティングはどうなるのですか?」みたいな話が出てきて閉口してしまうのだ。

dimensionsは従来のレガシー調査の枠組みで理解すべきではない。だが一方、一般にレガシー調査の枠組みの中でしか、どのようなマーケティング・リサーチ・ツールも受け容れてもらうのは難しい。この矛盾を突破しなければならない。

ソーシャル・メディアで公開されたデータの利用方法として、誰しも思い浮かべるのがブログ・リサーチのようなテクストを数量化して時系列で見せるやりかただ。しかし、これは一見すごいイノベーションのように見えて、よく考えてみるとこれら出力結果の用途範囲は案外狭い。これら時系列グラフは視覚的インパクトはあっても、そこから先の用途は限られているのだ。

「結論を手短に報告してもらいたい。視覚的に『見える化』してもらいたい。」などと言われるのはわかる。わかるが、そこには本や新聞を自分で読む代わりに誰かに読んでもらって要約を「報告」してもらうような、また大学の授業に出席せずに講義ノートを借りて試験に間に合わせるような、なんかそんなイージーな姿勢と同じようなものが見え隠れしていないか。お手軽な形式知よりも、手間のかかる暗黙知が有効な場面もあるのだ。特に新規にゼロベースで何かを創造・開発する場合は。仮説も分析も結果もすべて他人任せなら、ではあなたの仕事は一体何なんだ?。なるほど、「結果報告を聞くのが仕事」だったのか。いやはや。しかし手配師ばかりが増えても、日本はますますダメになるばかりだ。

三宅 啓    INITIATIVE INC.


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