最初にコミュニティ(闘病ユニバース)ありき

 ShinjukuCafe

これまでこのブログで何回も取り上げてきたが、私たちのTOBYOプロジェクトは、旧来の「闘病記」の延長で闘病ユニバースを捉えているのではない。同様に、旧来の「患者会、NPO、支援団体」の延長で、今ネット上で進行している「闘病グラフ」の可能性を捉えているのでもない。私たちは、何か医療に関わる啓蒙的な理念やスローガンを掲げて、患者、消費者に呼びかけるようなことをやるつもりはまったくない。むしろ、この15年の間に、日本語ウェブにおいて闘病ユニバースを自律的に創造してきた闘病者たちの後を追い、その活動成果を私たちはフォローして行っているに過ぎない。

最初にコミュニティ(闘病ユニバース)ありき。

そしてそのコミュニティは、オープンでゆるいソーシャルグラフを形成しながら自発的に発展して行った。そこには従来の医療の専門家、啓蒙家、評論家、関連団体などの姿はない。正確に言えば、これら闘病者たちの自発的な活動は、旧来の専門家から発せられるワンウェイの情報伝達を乗り越え、専門家たちから得た知識情報を比較引用しつつ、自分たちの体験を共有することで集合知を作り上げ、さらに相互学習(Social Learning)さえ開始したのである。

TOBYOは、このような闘病ユニバースの持つ巨大な可能性を実際に引出すためのツールであるにすぎない。つまり闘病ユニバースが主でありTOBYOは従であるような、そんな関係であるから、TOBYOが「主」を置いて何か啓蒙的な呼びかけをすることはない。そしてこのような闘病ユニバースの成り立ちと、旧来の「闘病記」や「患者会」などは全く無関係である。そう言えばこれまでマスコミなどから取材を受けたとき、必ず異口同音に「患者会をどう思うか」との質問が発せられ、そのたびに強い違和感を持った。私たちは闘病ユニバースのうちすでに2万2千件の闘病サイトを可視化してきたが、そのうち患者会や支援団体に言及しているのは、多く見積もっても数パーセント以下のサイトに過ぎない。それを「どう思うか」と聞かれても何とも返答できない。

またそれら記述も、けっして患者会など各種団体に対して好意的なものばかりとは限らない。患者会と言っても、現実には宗教団体や政治党派が運営している団体もある。患者とのトラブルも闘病ドキュメントには散見される。闘病ユニバースは、これまで見えなかった患者団体の実態まで可視化している。もちろん素晴らしい活動をしている団体は多いのだろうが、常識的に見て、これらの団体もまた「玉石混淆」状態であることはまちがいない。それにもかかわらず、マスコミや学者・評論家による手放しの患者会礼賛をあちこちで目にする。首をかしげざるをえないのだ。

私たちは、旧来の闘病記や患者会の延長に、一種の代替物として闘病ユニバースをはじめウェブにおける闘病者の諸活動を見ることに同意できない。闘病ユニバースはまったく新しい質を持った新しい闘病者の自律的成果物であり、それは旧来のいかなるリアル活動とも違うものだ。以前にも述べたことがあるが、旧来のリアル起点でネットを見るような方向性の視線ではなく、逆にネット起点で闘病ユニバースからリアル医療を改めて見直すような視線が今もとめられていると思う。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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