クラウドソーシングの天気予報: 5万人の気象人力センサー

weathernews

休日の朝。いつもよりゆっくりして遅めの朝食をとりながら、なんとなくテレビを眺めていると、ある番組で「ウェザーニュース」を取り上げていることに気付いた。さしたる特別の関心もなく見ているうちに、いつのまにか「クラウドソーシング」という言葉をつぶやきながら、つい引き込まれてしまっていた。

ウェザーニュースでは、毎日、全国5万人のリポーターが自分の居住地の気象データをネットで報告している。データ送信は携帯を使い、天候、気温、気圧、風向、風速など基本データやコメントに加え、空模様や強風になびく木々など風景写真データも含む。それら全国5万ヶ所から集まってくるデータに基づいて、ウェザーニュースでは日本全国の天候状況をマッピングし予測を組み立てているわけだ。たとえば雨がいつどこからどんなふうに降り始めているかなど、リアルタイムできめ細かく全国の天候変化を把握できるようになっている。何よりも、実際にその土地の人間が体験した事実が、最新の気象データとしてあげられてくるのが強みである。気象庁が気象衛星を中心に構築している全国観測網「アメダス」でさえ、実際の全国観測地点は1500ヶ所程度とのことで、このウェザーニュースの人力センサーの観測地点数とデータ量は完全にアメダスを凌駕しているらしい。

こんな「クラウドソーシングの天気予報システム」が、実際に稼働しているとは迂闊にも知らなかった。ウェザーニュース担当者の言によれば「圧倒的なデータ量が肝だ。『量』が『質』を生み出すことが実際に分かった」とのことだ。またあるリポーター(主婦)は「みんなの役に立っているところが、やりがいになっている」とインタビューに答えていた。ウェザニュースでは、ユーザーはリポーターになると、データ報告に応じてポイントを獲得できる。そのポイントを使えば、ウェザーニュースの有料サービスが無料になるらしい。

このケースでは、ユーザーは自分たちでデータを生み出し、その成果を報酬(ポイント)として受け取り、同時に「みんなの役に立っている」という満足感まで得ている。いまや消費者は、ネットによって新しい社会的役割を担おうとしているのである。

これらを見ながら想起されたのは、当然、TOBYOプロジェクトと闘病ユニバースのことだ。私たちがあえて「闘病者」と呼んでいるのは、患者およびその関係者が、ウェザーニュースのケースと同様に、従来の「患者」像よりももっと積極的で社会的な役割を担い始めていると見ているからだ。闘病ユニバースに公開された大量の体験ドキュメントは、まず「自分のために」書かれているのだが、同時に「同じような病気と闘う未知の誰かに役立ちたい」という強いモチベーションがその背景にはある。

ウェザーニュースと同じく、闘病ユニバースにおいても「消費者(闘病者)は自分たちでデータを生み出している」と言えよう。だが、足りないのは「みんなの役に立っている」ことを目に見えるものとして実感することであり、さらに「その成果を報酬として受け取る」ことである。私たちはTOBYOプロジェクトにおいて、闘病者が生み出したドキュメントが具体的に役立つための仕組みと、その成果を何らかの報酬として受け取れる仕組みを開発しようとしている。それは、「闘病者のクラウドソーシング」を医療に持ち込むことによって医療を変えようとする一つの挑戦である。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>