私たちが、外部の人から日頃よく訊かれる質問がある。それは「TOBYOのようなサービスは海外にあるのか?」という質問である。それに対し「海外にはTOBYOのようなサービスは存在しない」と答えると、たいていは意外な顔をされる。まあ、このブログで海外の新しい医療サービスを多数紹介しているので、きっとTOBYOも、それらのうちの或るサービスから発案されたのだろうと見られても、ある意味当然だとは言えるだろう。だが、TOBYOは生粋の「Made in Japan」なのだ。
TOBYOは私たちのオリジナルアイデアだが、そのことをあまり自慢するつもりはない。なぜなら、正確に言えばTOBYOは日本の闘病ユニバースが生み出したものだからだ。15年前に日本で商用インターネットが始まって以来、日本では「ネットで闘病体験を公開する」という文化が自然発生的に生まれたのである。現在、ネット上にはおよそ3万件(推定)の日本語闘病サイトが開設されているが、この15年間に、この闘病ユニバースは量的にも質的にも進化してきたのである。
TOBYOはたしかに私たちがその原案を考え、昨年春から運用を始めたのだが、それはたまたま私たちが偶然かかわったに過ぎず、むしろ闘病ユニバースの自律的な進化自身が生み出したものだと考える方が好ましい。つまり私たちがTOBYOを作らなくても、きっと他の誰かが作っていたに違いないのだ。それは闘病ユニバースの進化がある段階に到達し、自分をより構造的に可視化する必要が生まれ、いわば必然的にTOBYOのようなものを外部化したのだと思う。だから、私たちはTOBYOの真の制作者ではなく、闘病ユニバースを形成する巨大な集合無意識みたいなものこそが制作者なのだ。
ティム・オライリーとジョン・バッテルといえば、五年前にWeb2.0ムーブメントを仕掛けた人たちだが、先日、今秋予定されている「Web2.0 Summit」の公式ブログで、今後のWeb2.0の進化を予測するエントリ「Web Squared: Web 2.0 Five Years On」を発表した。きわめて刺激的なこのエントリを読みながら、「この二人に代表されるビジョナリがウェブ進化を先導しているというよりも、ウェブ自身が自律的に進化しており、ビジョナリ達の口を通してその未来を語らせているのではないか」という印象を持ったのである。ついでに言えば、このエントリではPatientsLikeMeをはじめ医療における先進事例にも注目が払われている。web2.0の中心的ビジョナリ達が、Health2.0に関心を向けはじめているところが興味深い。
話をもどそう。TOBYOは闘病ユニバースの存在なくして生まれてこなかったのである。今後もそうである。だからTOBYOは、闘病ユニバースに対しリスペクトを払わなければならないのだ。そして、それをいずれ具体的な形で表したいと考えている。闘病ユニバースを形成する多数の闘病者の皆さんに、なんらかの具体的なリターンがあるような、そんな企画を検討し始めている。
三宅 啓 INITIATIVE INC.