長年、日本医療の課題であったレセプト(診療報酬明細書)電子化・オンライン化だが、ここへ来て医療界からの猛反発に直面し先行き不透明になりつつあったが、結局、2011年に予定されていた義務化の実質骨抜きが決まったようだ。
政府・自民党は24日、具体的な治療内容や投薬名、診療報酬点数が書かれたレセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求を平成23年度に完全義務化するとした政府方針について、新たに例外規定を設けることを決めた。この結果、23年度からの完全義務化は先送りされることが正式に決まった。
同日開かれた自民党の行政改革推進本部などの合同会議で、内閣府の規制改革推進室が、例外規定の設置方針を含む「規制改革推進3カ年計画」の改定版を提示し、了承された。(産経ニュース2009.3.24)
レセプトデータの電子化は、医療費のムダを抑制し、医療の効率化を促進する基礎となる施策であるが、またもや先送りされてしまったわけである。費用の可視化および透明化は、すべての経済活動の前提的基礎であるが、なぜ医療だけが除外されるのか。今回、レセプト電子化に反対した日本医師会、歯科医師会、薬剤師会は、消費者に納得のいく説明をすべきであろう。これについて「地域医療の崩壊が促進される」などというわけのわからないロジックが出されているのだが、このような稚拙な説明は消費者を愚弄するものだ。
これに関連して、前経済財政担当大臣を務めた大田弘子氏は次のように指摘している。
そもそもITへの対応は、他の業界でも楽だったわけではない。それでも民間企業は、生き残りをかけて新技術に懸命に対応してきた。ましてや、医療は保険料という半ば強制的に集められたお金を使っている。他の業界より効率化の努力をしても当然ではないか。なぜ医療においてだけ、私たちはIT化のメリットを享受できないのか。お隣の韓国は、1996年から10年かけて、オンライン化100%を達成している。
(産経ニュース2009.3.24)
一方、現行レセプト制度は、厚労省主導の官僚主義的煩雑さと硬直性を体現するものと言われているが、たとえそうであっても、IT化による効率促進など恩恵を拒む理由にはならないはずだ。現行制度をそのままIT化しようとするから使いにくいのだろうが、この際、IT化と同時に制度そのものの簡素化を図るべきであろう。
昨今の大衆薬品ネット販売規制強化、そしてこのレセプト電子化骨抜きなどを見ていると、「この国の医療は、いったい誰のものか」との強い疑念が起きるのを禁じ得ない。
三宅 啓 INITIATIVE INC.
某所で医療コンサルをしています。
レセプトオンライン化の延長処置については、義務化の前提となる代行請求の仕組みの実現が困難であることが背景にあります。
これは医科レセについてなのですが、現状の紙レセを、その内容を保った形で電子レセの仕様にするのは技術的に困難なため、代行請求の仕組みも事実上頓挫しています。
ただし、調剤については電子レセがかなり普及していることから、オンライン化はそれほど難しくないと思います。
医科レセで難しい理由は、BPR無しでというより、医療機関の今の業務手順の見直しをせずに、電子化をすることが前提となっているので、IT化が難しいためです。このあたりは薬局も同じなのですが、職能団体の政治力の違いにより、医科にメスは入れられないということのようです。そういった意味では、医療は医師会のものです。
ただし、地方の末端の診療所まで、オンラインの義務化とか、ICTを利用した資格確認とか必須といっている学者には疑問が残りますが…