米国で最も権威ある医学雑誌といわれるNEJM誌(New England Journal of Medicine)だが、最近、脱「印刷メディア」をめざし、Web2.0ツール&サービスの積極投入によるウェブサイト強化に乗り出した。また同じく著名医学雑誌であるLancet誌も、2.0ツール&サービスを中心にウェブサイト強化を現在計画中である。
NEJM誌のウェブサイトでは現在、次のような2.0ツールやサービスを提供している。
- オーディオ・サマリー: ストリーミングとPodcastingでNEJM誌記事をオーディオ配信
- デシジョン・メイキング・ツール: 「Wisdom of Crowds」の考え方を採用した意思決定ツール
- RSSフィード配信
- イメージ・チャレンジ: イメージ診断クイズ
- 治療ビデオ・アーカイブ
- 人気論文・記事: ページビュー数、ブログ引用回数などによるランキング
(下記スクリーンショット参照:クリックで拡大。赤で囲んでいるのが該当ツール&サービス)
さらにNEJM誌では今後2.0サービスを追加していく予定で、そのベータ版である実験ページまで公開している。 その「ニュー・プロジェクト・リスト」には、次のような実験段階のツール&サービスがリストされている。
- スライド付きNEJM誌オーディオサマリー
- Googleガジェット
- PowerPointスライド制作用イメージツール
- 記事全文読み上げツール
- イメージ拡大ツール
- amazonでのNEJM誌書評書籍購入サービス
先のダボス会議では「新聞が消えるのは2014年ごろ」という予測が出されたそうだが、雑誌の命脈も常識的に考えてそう長くはないはずだ。だが今すぐ消えるわけでもなく、準備の時間もまだあるだろうから、ここは「慌てず、遅れず」に備えをしていくべき段階なのだろう。このような時代の文脈の中で、医学専門誌のNEJM誌やLancet誌がウェブサイトに注力するのは当然の成り行きである。当面は、紙の雑誌の購読者サービス強化という方向でウェブサイト注力は図られていくのだろうが、やがてビジネスモデルも含め根底的な事業革新へと進む可能性だってある。
たとえば、医療者中心の購読者コミュニティをSNSなどへ展開していくことも可能だろう。また、ブログなどUGMとの共生の道もあり得る。NEJM誌は医学専門誌として自己が持つ強みを、2.0ツール&サービスを使って、特定のエキスパート・コミュニティとの接点を活性化する方向で発揮しようと試行しているのである。
三宅 啓 INITIATIVE INC.