医師向け診断支援ツール: Isabel

isabel

AMA(米国医師会)発表によれば、当節、一般的に医師の誤診確率は8%-24%の間にあるとされている。その誤診原因の多くは「アンコーリング」(anchoring)にあるのだそうだ。「アンコーリング」とは「固着する」というような意味で、医師が頑固に一つの診断に夢中になり、他の可能性を考慮しそこなうことを指すらしい。

この「アンコーリング」を避けるために、近年、Googleを診断の補助に使う医師が増加している。BMJ(British Medical Journal)誌は、昨年「Googling for a Diagnosis」という調査研究を発表している。これは医師のGoogle利用がどれだけ正しい診断に結びつくかを調査したもので、結論には「インターネットへのアクセスは、外来診療でも病棟でもますます手軽になり、ウェブは急速に医師の重要な臨床ツールになってきている。ウェブ・ベースの検索利用は、医師が難しいケースを診断することを助けるだろう」と肯定的な記述がみられる。

診断時のGoogle利用は今後も増加するだろうが、この診断支援サービス分野ではすでに「Isabel」というウェブ・アプリケーションが実績を積んでいる。Isabelは患者の標準的なデータ(年齢、性、妊娠の有無、位置、症状等)を入力すれば、可能性のある診断例を、さまざまな違ったタイプの病気カテゴリー別にきちんと表示してくれる。

このIsabelは有料サービスであり、300ベッド規模の病院だと年間5万ドルかかるそうだ。日本円であれば5百数十万円程度とかなり高くつくのだが、すでに18か所の病院が契約しているようだ。「誤診が減る」という触れ込みが、米国マスメディアなどでも好意的に取り上げられている。

今日の医学は日進月歩の進歩を見せており、専門的知識は日々更新されているのであるから、医療者がそれに遅れず最新の知識を習得するのは並大抵のことではない。このIsabelは、そのようなプロフェッショナル・ニーズに応えるプロフェッショナル・ツールとして成功しているということか。

だが、これもあくまで「アンコーリング」を回避するための補助という位置づけであり、医師の総合的な診断が優先することは言うまでもない。「データを入力すれば、自動的に診断が出る」というオートメーション医療には、まだまだほど遠いようだ。だが、このような診断支援ツールとEMRやPHRが連携し、その個人の病歴、薬歴、検査データや遺伝子情報が入力されるようになれば、診断精度は上がるようになるかもしれない。現にIsabelは病院側のEMRとの連携が可能になっている。

Health2.0は、やはりどうしても患者・生活者に対するウェブ医療サービスという側面でイメージしがちであるが、SermoやこのIsabelのようにプロフェッショナル・サービスというもう一つの領域を忘れてはならないだろう。だがIsabelは2.0とは呼びえないだろう。

SermoのようなプロフェッショナルSNSが進化して、ひとつの医療現場で、しかもリアルタイムで医師の集合知が使えるようになれば素晴らしい。

<参考>
●HIPPOCRATech,”Doctors using technology to assist in diagnosing”
●BMJ,published 10 November 2006, “Googling for a diagnosis–use of Google as a diagnostic aid: internet based study”

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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