医療生産性ツール: iMedicor

imedicor医療プロフェッショナル向けのウェブサービスと言えば、Sermoの成功に代表されるプロフェッショナルSNSがまず想起される。すでに日本でも医師向けSNSはいくつか登場してきている。さて今回新登場したiMedicorだが、グループ、フォーラム、ブログなどSNSライクな機能を持ちながら、実はSermoなどとはまったく異なるウェブサービスと考えるべきだろう。

Sermoなど医師SNSは、仕事上の経験共有や医療機器や薬剤についてのディスカッション、また一般的な同業同士の会話を提供するものであった。それに対しiMedicorは、より一層医療現場に近いデータを、医師同士で共有することをめざしている。たとえばそれは特定の患者の検査データや診療記録などであり、一般的な交流というよりは、特定の患者を治療するためのプロフェッショナルかつ具体的な知識情報交換や相談機能を実現するものである。だがこのような情報をインターネットでやり取りするためには、当然患者プライバシーの厳格な保護が求められる。そこでiMedicorは患者プライバシー保護を重視し、「HIPAAを順守するツール」を前面に訴求しているわけだ。

iMedicorが現在提供している機能は次のようになる。

  • 患者医療情報交換機能
  • 医師紹介センター
  • オンライン生涯学習プログラム
  • 音声入力ドキュメンテーション

「医師紹介センター」だが、これはたとえばプライマリーケア医にかかっている患者に専門医を紹介する機能である。その際、医師同士の引き継ぎ・連絡・相談にはHIPAA準拠の「患者医療情報交換機能」が使用できる。また「音声入力ドキュメンテーション」という機能は一見奇異に思えるが、「医師の手間を省く」ということを重視しているこのサイトならではの機能とも言える。というのは、iMedicorのブランド・ステートメントにも謳われているが、”Medical Practice Productivity Tool”(医療生産性ツール)こそが、このサービスが目指しているコア・バリューなのである。

ところで医師SNSの場合、よく語られるのが集合知やピア・プロダクションなど「みんなの知恵を集めて、新しい知識やソリューションを創造する」ということである。この点からみると、iMedicorはたしかに医師同士の連携ツールであるという側面は持ちながら、どちらかといえば従来医療の業務フローを効率化する運用ツールという性格が強いと思われる。

そう考えると、従来のEHRなどプロプライエタリな業務ソフトウェアとの競合があり得るのではないか。この起こり得る競合を「無料」という訴求点で回避できるかどうかが、このiMedicorにとっての最大のマーケティング課題かもしれない。

プロフェッショナルSNSとEHRの中間点にニッチ市場はあるのか?。これがまずiMedicorが直面し答えなければならない問題である。そしてさらに、EHR、RHIO、NHINなど、国家プロジェクトとして進められている医療情報共有ネットワークとの将来の競合が控えている。これらプロジェクトに対し、iMedicorは、いわばグラス・ルーツの医療情報共有ネットワークと言えるのだが、これらプロジェクトが完成してしまえば生存適所は消える。

だが現実には「EHR、RHIO、NHIN」プロジェクトの導入が大きく遅滞し、計画の今後の成否はまったく視界不良になっている。ぐずぐずしている間に、iMedicorが草の根ネットを全国に張り巡らせる可能性も、まったくないわけでもない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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