Web2.0のインパクトを受けて、医療業界からも今年に入ってから、世界中で多数のムーブメントが立ち上がってきている。中でも米国におけるHealth2.0やPPH(People Powered Healthcare)の二グループが、現在では医療における2.0ムーブメントの中心的存在といえるだろうが、その他にもさまざまな動きがある。
(Created by Victor Castilla MD)
そのなかでも、”Medicine2.0″という言葉が露出される機会が増えてきている。これはあくまで個人ブログ主体の自然発生的な動きであり、Health2.0やPPHのような一定のグループとしてのまとまりを、まだ持っていない。つまり、何かマニフェストやスローガンを設定して組織的に動くような運動体ではないが、基本的な方向性はHealth2.0やPPHと一致すると考えてよい。
では”Medicine2.0″と他のムーブメントとの差違はどこにあるかといえば、それは「プロフェッショナルの知的活動」の焦点化ということではないだろうか。あくまで医療者として、つまり医療プロフェッショナルとしてWeb2.0を活用していこうというシンプルなポイントに焦点を持つのが”Medicine2.0″と言えそうだ。
“Medicine2.0″は若い医師が中心的な担い手である。かれらの主要な関心は、医療制度変革とか患者中心医療などという点にあるのではない。むしろ医療プロフェッショナルとして、まずWeb2.0のオープンな知識共有の思想に共感しているように思える。医学と言う高度に専門的な知識体系を、Web2.0のツールを活用して、もっとオープンで生産的な知識活動にすることが彼らの目指していることなのである。すなわち、Web2.0を医学における知的活動の革新として捉える動きが”Medicine2.0″であると言えよう。
このように考えると、逆に「知的活動の革新ムーブメント」というWeb2.0の一つの側面が浮かび上がってくる。そして、これは「知識エスタブリッシュメント対大衆」というシェーマに描きやすいテーマでもある。だが”Medicine2.0″では、むしろ知識エスタブリッシュメント内部における革新というベクトルを持つのではないか。
もとより「高度に専門的な知識体系」を制度的、権威的に維持するのはアカデミズムである。では”Medicine2.0″が「知識のアンシャンレジーム」としてのアカデミズム的知を革新する方向まで持つかといえば、そうではないだろう。
“Medicine2.0″が今後、どのように発展していくか注目していきたい。
三宅 啓 INITIATIVE INC.