脱社会主義の医療改革論議

cost&care

現在進行中の米国医療改革を見ていると、たとえばハーバード・ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授のようなマーケティング学者が、医療から見れば門外漢ではあるが、政策立案・策定などに大きな影響力を持っているのがわかる。

米国の産業エスタブリッシュメント層は、どうやら医療改革を医療業界だけに任せられないと考えているようだ。医療業界の外部から、改革をめぐるたくさんの発言が寄せられている。無論、ポーター教授の医療改革論に対し異論を持つ向きも多いが、それにしてもさまざまな分野から多様な視点で医療改革が議論されており、その社会的な広がりは改革論議の偏向や狭隘さを許さない多様性を確保している。

片や日本の状況を見ると、医療改革や制度設計は国民全体の問題でありながら、その政策立案プロセスを見ると、ごく一部の「有識者」や医療業界関係者、それに官僚だけがかかわり、あとで決定が「上から降ってくる」ような具合である。近年、官邸機能が強化されたとはいえ、基本図式は変わっていないのではないか。

早い話が、日本医療制度はテクノクラート(官僚)が制度設計と計画立案を実質的に一手に司り、統制的に運営される社会主義的制度であると言える。この点をどう見るかを議論しなければ、枝葉を論じるだけに終わってしまう。そろそろ、医療だけを統制経済、社会主義体制で運用してよいものかどうか、広範な議論をする時期に来ているのではないか。

先週も厚労省は「医療・介護分野の効率化計画」を公表しているが、このような「計画」があとで達成水準も検証されず、自らの総括と責任も明確にしないまま反故にされてきたのを、一体われわれは何度目撃してきただろう。

日本医療が効率が悪い高コスト体質であるとしても、その原因の一端が行政自身を含む社会主義的な統制システムにあることは疑いない。つまり、このような「医療・介護分野の効率化計画」という発想と計画自身が、実は効率化を阻んでいるという不幸な逆説に、早く気づくべきなのではないだろうか。

かつてリストラ全盛時に流行ったサラリーマン川柳が、言い得て妙である。

コストダウン
さけぶあんたが大コスト

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>