米国の医療機関クリーブランドクリニックの四人の医師が、昨年11月からAskDrWikiという医療専門情報提供サイトをオープンして話題になっている。
このサイトは、Webコラボレーション・ツールであるWikiで作られた百科事典「Wikipedia」の医療専門版とでも呼べるもので、医師、看護師、技術者、医学生の資格があれば誰でもコンテンツを投稿したり編集したりできる。
サイト設立者の四人の医師が心臓病と電気生理学の専門家であることから、収録コンテンツは心臓病関係が多い。トップページの紹介には「AskDrWiki.comへようこそ。ここであなたは臨床メモ、pearls、心電図、レントゲン写真、冠動脈造影図や静脈造影図を公開できます。」とある。つまりこのサイトのターゲットユーザーは医療専門家であることがわかる。
使用シーンは、医師が医療現場で治療方針を決定する際の資料として使うことを想定している。同様の医療専門家向けウェブサービスとしては”UpToDate“が有名。医師ユーザーを多数獲得しているようだが、有料サービスである。
設立者の一人ケン・シベロ医師は「AskDrWikiは、無料コンテンツで、すぐさまアップデートできる点において、最先端の医学教科書であり医学雑誌である」と述べている。
日進月歩する医学においては、紙に印刷した百科事典や本では情報更新が追いつかず、収録情報はどんどん古くなっていく。ウェブは最新の情報を提供するのに適しているが、ただWeb1.0時代のように、少数の専門家や編集者でコンテンツ制作をするとコストと時間がかかりすぎる。これらの問題を、Wikiのような参加型コラボレーションツールを使えば解決できると考えたところが2.0的である。
ところで、やはりここでも「収録情報の信頼性をいかに確保するか」が問われているようだ。AskDrWikiを批判する人は、「編集者4人の専門分野以外の投稿があったとき、それも誤った情報が投稿されたとき、どのようにチェックするのか。専門分野に限定すればよいが、医療全体に範囲を拡張したとき、情報の信頼性確保がむつかしくなるだろう」と懸念を表明している。
これまで網羅的な医療情報の提供といえば、「メルクマニュアル」のような紙の百科事典のウェブ版というものがほとんどであった。日本語版Wikipediaでも医療情報セクションはあるが、今後はこのAskDrWikiのような医療専門版が登場してくれば、低予算で最新の情報を集約することが出来る。「クラウド・ソーシング」ということが言われているが、専門家の知識・経験を社会的に共有することができれば素晴らしい。