日本医療制度再設計の書

巷間、医療崩壊などという物騒な言葉が普通に言われるようになった今日、ではどのようにそれを解決すべきかを考える際に、全体的な問題の俯瞰図と具体的な道筋を提言する書がでました。「大学病院革命」(黒川清著、日経BP社)

大学病院革命

とかくネガティブでシニカルな現場報告が多い医療関連書籍にあって、本書は日本の医療が抱える負の諸問題を徹底して批判検討しながら、一方ではその改革の処方箋をわかりやすく提示しています。

たとえば、誰もが日本の医療システムの諸悪の根源として批判する大学の医局講座制の問題にしても、本書はその制度の起源を歴史的に提示し、また国際比較でその特殊性を明瞭に示しています。そのことによって、医療問題という、ともすれば専門領域に属する問題のありかが、誰にでも平易に理解できるように記述されています。

また現在、牢固として存在しているかに見える大学医学部や大学病院の「権威と権力」も、歴史的かつ日本ローカル的な特殊状況の産物であり、いかようにも改変できるものであることを明らかにしています。その意味で、「革命」という言葉が書名に入っていることに納得させられます。

1.日本の大学病院はなぜダメになったのか

2.”医療事故”は医者のせい?患者のせい?

3.間違いだらけの日本の大学医療教育

4.アメリカ/カナダのメディカルスクールを見習おう

5.こうすれば問題は解決できる(病院と医療の新しい仕組みをつくろう)

6.「ダメな医者」をつくっているのは”メディア”と”世間”である

本書のモチーフは、日本医療の中枢を担ってきた大学医学部と大学病院の問題点を明らかにする、つまり医療の供給側の構造的問題を取り上げるだけでなく、医療の需要側である生活者の医療不信の存在にも目を向け、需要と供給双方の従来関係を革新し新たな制度がどのように設計可能かを探る、という基本的な方向性を持っています。私達が疑いもせず慣れ親しんで来た日本の医療制度観を揺さぶり、現状に代替する「もう一つ別の医療制度」の在り処を指し示してくれているのです。

特に興味深かったのは、本書が「オープンシステムとしての病院」という私達のこれまでの病院観にない、新たな病院像を提示している点です。日本では大学病院や地域の大病院のように、人も設備も、それだけで自己完結した組織として「病院」があったわけですが、医師を所有しない「地域に開かれた場」としての病院の可能性に言及し、そのことが日本医療を根本的に変革しうるのだという著者の主張に感銘を受けました。「何もかもすべての機能を自分で抱え込む」というファットな大組織・大病院のあり方が、効率性の観点から批判され、むしろ地域に存在する医療資源をネットワークするような柔軟な「オープンシステム」としての病院、という展開に「目からウロコ」でありました。

やや我田引水気味に言わせてもらえば、「Health2.0」に近い発想があるような読後感を持ちました。今後の日本の医療制度改革のガイドラインとして使える本です。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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