昨日よりも若く: Younger Than Yesterday

事務所でBGMによくFMラジオをかけている。先日、たまたま流れてきた曲に聞き覚えがあったのでボリュームを上げると、なんとBob Dylanの名曲”My Back Pages”ではないか。しばし傾聴してみると、演奏はDylanではなく確かにByrdsのカバーバージョンのはずだが、ボーカルが微妙にRoger MacGuinnとは異なっていたので首をひねった。曲が終わりDJ氏の解説を聞くと、近日公開される映画「マイ・バック・ページ」のテーマソングだと言う。そういえばDylanの曲と同名の川本三郎氏の自伝的作品「マイ・バック・ページ」のことを思い出した。20年ほど前に読んだが、あの作品が映画化されたとは意外であった。

今日、妻を誘い映画「マイ・バック・ページ」を池袋へ見に行った。長い。全体として冗長さを禁じえず、特に俳優の顔をドアップで長回しするシーンの多用にはいささか辟易した。これではテレビドラマではないか。もっと映画的な映像を見たいと思ったが、しかしそれでも見終わった時の満足感はあった。

1971年、自衛隊朝霞基地での自衛隊員殺害事件。この渦中に巻き込まれた川本三郎氏の実体験に基づく作品が「マイ・バック・ページ」だが、その内容にはここでは立ち入らないことにする。作品内容を論じるよりも、この作品のタイトルに選ばれたDylanの楽曲「My Back Pages」が、何よりも雄弁にこの作品を語っている。

My Back Pages      by Bob Dylan

Crimson flames tied through my ears
Rollin’ high and mighty traps
Pounced with fire on flaming roads
Using ideas as my maps
“We’ll meet on edges , soon,” said I
Proud ‘neath heated brow.
Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

例によってDylanの詩は難解だが、この曲の全体を眺め渡すと、案外この詩に込められているメッセージはシンプルであるような気がする。特に各節の末尾に配された二行が肝である。

ああ、あのときの私は、今よりもずっと年老いていて
今は、あのときよりもずっと若い

後にByrdsがこの曲のカバーバージョンを出したが、その収録アルバムは“Younger Than Yesterday”と題されていた。あきらかに、この曲のこの一節を引用したものであろう。イデオロギーに囚われ「生きることは白か黒だという嘘」を信じていた自分は年老いていたが、それらを脱出した今の自分は過去よりもずっと若い。そんな強いメッセージが込められていると思う。川本氏の作品「マイ・バック・ページ」もこのDylanのメッセージの延長線上に書かれている。

映画中のエピソードとして、当時潜伏中の東大全共闘議長・山本義隆氏を密かに主人公が車で搬送するシーンがあるが、そういえば山本氏は数年前に「十六世紀文化革命」というすばらしい著書を上梓している。この本を読んで、意外にも当時進行中のWeb2.0革命とまさにシンクロする内容だと思った。全共闘を起点として「近代的な知」批判の問題を根底的に考えに考え抜いて、そして到達した果てに現代のテーマと切り結んだという、そんな凄まじい数十年をかけた仕事もあるのだと思い知った。

Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>