書評:「医療鎖国 ~なぜ日本ではがん新薬が使えないのか~」中田敏博、文春新書

Iryou_Sakoku

医療を自分のテーマにして以来、さまざまな医療関係の方々からお話を聞いたり、医療関係の本を読んだりしてきたのだが、それらに何か根本的な違和感というものを常に抱き続けてきたと思う。その違和感が何に由来するかを考えてきたのだが、結局、「日本の医療を語る言説空間というものが、どういうわけか歪んでいる」というぼんやりした印象を持つに至ったのである。そのことをこのブログでさまざまに書いてきたわけだが、本書を読み、これまでのぼんやりした「違和感」の霧が晴れ上がったような気がした。日本医療は鎖国していたのだ。

この「鎖国」は、米国シリコンバレーで医療ベンチャーキャピタルを起業した元医師の目から、つまり「外部」の専門家から可視化されたのである。なるほど「鎖国」を内部から見通すことは難しい。そして「鎖国」という指摘によって、今までぼんやりと、しかもてんでばらばらに存在しているかのように見えた日本医療を取り巻く問題の諸相が、一挙にわかりやすく、はっきりと見渡せるようになった。良書である。

第一章 「医療鎖国」の実態
第二章 文民統制を取り戻せ!
第三章 複雑怪奇な「身分制度」からの脱却
第四章 「開国派」の夢は実現できるのか?
第五章 消費税は医療の助け舟か?
第六章 箱モノ志向・自前主義からの脱却
第七章 次世代の高度成長を牽引する医療産業
終章 いまこそ「医療開国」を

次に第一章の目次細目を書き出してみるが、これで「医療鎖国の実態」がつかめるだろう。

●日本の外で次々に起こる医療革新
●日本に届かないバイオ医療品革命
●日本で救えない重症心不全
●ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグ
●医療先進国・日本という幻想
●隠蔽され続けた医師不足の現状
●行き過ぎの「節約」医療
●医療はブラックボックス
●医療問題が難しい理由
●メディアによる一元的な感情論
●官僚についていけなかった政治家
●無関心が医療「鎖国」を生んだ
●鎖国と既得権
●効率よく判断するワザ
●「鎖国」時代の先入観を取り除く

著者は医師資格を持ちながらMITでMBAを取得し、コンサル・ファームを経てシリコンバレーで100億円のファンドを運営する。投資対象はバイオベンチャーが中心のようだが、ぜひHealth2.0企業にも目を向けてもらいたいものだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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