病院ウェブサイトはなぜ貧弱なのか?

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「過去10年間、病院会計が病院経営の第一の焦点であり続けてきた。コスト上昇と返済金の縮小は『e-プロジェクト』のプライオリティを落とした。特にウェブを通して提供されるサービスは売り上げを生まないからである。(中略)短期的課題へ反応することを強め、病院内部のプロセスを変えるような長期的な新しい試みに費やす時間は減少したのである。」
(”E-health and assurance: curing hospital websites.”2004, Ebrahim Randeree and H.R. Rao,University at Buffalo )

いささか古いが病院のウェブサイトを論じた論文からの引用である。「ウェブを通して提供されるサービスは売り上げを生まない」と指摘されているが、これは現状もほとんど同じである。相変わらず病院のウェブサイトは純然たる「コスト」と捉えられている。

数年前にハーバード大学ビジネススクールのポーター教授は「戦略とインターネット」において、「インターネットは強力に産業構造と持続的な競争優位に影響を与える。医療制度が『市場指向』でない国々では、ネットにおける病院の存在は重要な問題にならない。」と書いた。

ここでも「ネットにおける病院の存在」という表現で病院ウェブサイトのあり方が「重要な問題ではない」とされている。ただし、「医療制度が『市場指向』ではない国々において」という前提が付されている。

日本の病院ウェブサイトの状況を考えて見ると

・売り上げを生まないコスト
・市場指向でない医療制度

この二つとも該当するから、従って病院ウェブサイトの貧相な実態も仕方ないことかもしれない。つまり医療制度が市場指向でなく競争的でもない場合、よけいに病院ウェブサイトの「コスト」としての性格が際立つということか。上記二つの条件は補完的に相互強化し合い、日本における医療機関Webサービスのイノベーションの阻害要因になっていると見ることができよう。これらを背景としてか、たとえば先日のエントリーでも見たように、国立がんセンターサイトの制作費が情報化予算全体のわずか1%で、そのコンテンツも貧相な低品質さであるということが起こる。

米国の医療機関サイトを見ていると、それぞれのマーケティング戦略が明瞭に見て取れる。「集客手段としてのウェブ」との位置づけも明確で、「ウェブで集客効果を20%上げた」などという報告をよく目にする。「看板」と割り切るにしても、上手な「看板」の立て方、見せ方と、下手なやりかたには歴然とした差異があるはずだ。いずれにせよ、まず「医療マーケティング」ということが理論的、技術的、人的に成熟してこなければ、医療機関がウェブを活用することはないかもしれない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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