闘病体験(経験)の共有

もう三年ほど前になりますが、医療分野でベンチャーを起業することを思い立ち、私たちが最初に取り組んだのは患者経験調査という医療評価システムでした。患者満足度調査なら聞いたことはあるでしょうが、おそらく患者経験調査はあまり知られていないでしょうね。これは1987年から、アメリカのピッカー研究所が基礎理論と実施手法を開発し、現在では欧米で広く活用されている患者視点の医療評価システムです。

簡単に言うと、患者満足度調査は文字通り、病院や医師などが提供したサービスに対する、患者の心理的な満足度を調査によって数値化するものです。それに対し、患者経験調査は、病院で患者が経験した事実を客観的に記述し、起こった事実の頻度を数値化するものです。つまり、満足度調査は「患者はどの程度満足したか?」に焦点を当てるのに対し、経験調査では「患者は病院で何を体験したか?」を明らかにするわけです。このように、経験調査は満足度調査につきまとう心理的・主観的であいまいな傾向を批判し、より客観的で事実性に立脚した医療評価をめざしていたのです。

(詳しくは「ペイシェンツ・アイズ」マーガレット・カーダイス他、日経BP社をご参照あれ)

私たちの「患者経験調査による医療評価システム構築」は、残念ながら未完に終わりましたが、この中でつかんだ「患者体験の重要性」という考え方は、TOBYO開発に大いに活かされることになりました。それは、病院や医師が提供する医療に対する評価は、その医療を受け取る患者をはじめ闘病者が、その病院で実際に何を体験したかをもとに下されるべきであるということです。

闘病者が医療を選択する際に参考となる情報は、まだまだ少ないとはいえ、徐々に増えては来ています。手術件数、満足度調査結果、施設情報、名医情報などがマスコミやネットで公表されています。しかし、これらは医療の現状に対し、非常に限定的な一部の側面を切り出したものであり、時には誤差を無視した数値比較がまかりとおったり、あるいは医療選択の参考データとしては説得力が弱かったり、専門的でありすぎたりと、闘病者が求める情報とはかけ離れたものとなっています。

闘病者の目線で、闘病者が実際に体験したことを、闘病者自身が語ること。求められる情報はこれです。闘病者の体験情報です。インターネットが出現してから、闘病者が自分の闘病体験を語るチャンスは大きく広がりました。そしてブログが出てきて、一層簡単に、闘病体験を発信できるようになりました。今やネット上には、過去のそして現在進行形のさまざまな闘病者体験が、幾千、幾十万と存在しています。闘病体験情報は豊富に多様に存在しているのです。あとは、これを共有し、より簡単に利用できる仕組みさえできれば、闘病者の医療選択に役立つはずです。「体験の共有」これがTOBYOのめざすものです。

三宅 啓


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