書評:「歴史は『べき乗則』で動く」

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たまたま書店で何の予備知識もなく手にとった「歴史は『べき乗則』で動く—種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学–」(マーク・ブキャナン、ハヤカワ文庫) だが、これが読み始めると止まらない面白さだ。途中、マンデルブローのフラクタル幾何学が出てくるあたりで、「ひょっとして、これは『二匹目のドジョウ』ならぬ『二匹目の黒鳥』ねらいか?」とも思った。昨年話題になったナシーム・ニコラス・タレブ「ブラック・スワン—不確実性とリスクの本質」(ダイヤモンド社)と基本的なテーマは同じと考えてよいだろう。

だが、実は本書は2003年にハヤカワから出た単行本「歴史の方程式—科学は大事件を予知できるか?」を改題し新たに文庫化したものらしく、「ブラック・スワン」よりも先に上梓されている。調べてみると「ブラック・スワン」下巻に本書についての言及があるとのことだ。そうすると「一匹目の黒鳥」はこっちの方だったのか?そんなことはどうでもよく、目次を一瞥しただけで本書の面白さは十分にわかるだろう。

第1章 なぜ世界は予期できぬ大激変に見舞われるのか
第2章 地震には「前兆」も「周期」もない
第3章 地震の規模と頻度の驚くべき関係--べき乗則の発見
第4章 べき乗則は自然界にあまねく宿る
第5章 最初の地滑りが運命の分かれ道--地震と臨界状態
第6章 世界は見た目よりも単純で、細部は重要ではない
第7章 防火対策を講じるほど山火事は大きくなる
第8章 大量絶滅は特別な出来事ではない
第9章 臨界状態へと自己組織化する生物ネットワーク
第10章 なぜ金融市場は暴落するのか--人間社会もべき乗則に従う
第11章 では、個人の自由意志はどうなるのか
第12章 科学は地続きに「進歩」するのではない
第13章 「学説ネットワークの雪崩」としての科学革命
第14章 「クレオパトラの鼻」が歴史を変えるのか
第15章 歴史物理学の可能性 続きを読む