TOBYOプロジェクトと「物語」

「物語というのは、その書き手が何かを語ろうとして、自分宛に書く手紙のようなものだ。書く以外の方法では、それが発見出来ないのだ。」 (「風の影」 カルロス・ルイス・サフォン, 集英社文庫)

私たちがTOBYOプロジェクトを始めた当初、どうしても避けて通れなかったのはウェブ上に公開された「闘病記」というものをどう見るべきかを徹底的に考え抜くことであった。その際、私たちが選んだのは、いわゆる「物語」や「作品」という視点からではなく、あくまでも「事実」や「データ」という視点からネット上に大量に公開された患者ドキュメントを見ることであった。

「物語」や「作品」という視点からあえて離れることによって、固有名詞で特定される具体的事実と数量化が可能なデータを可視化するというアイデアが生まれた。そのアイデアから、まず最初に「TOBYO事典」という自前のバーティカル検索エンジンが開発され、次に固有名詞をジャンル別に時系列で抽出・集計する「dimensions」が開発された。そしてその延長上に「がん闘病CHART」「V-search」とそれらの「TOBYO_API」が作られていった。

こう見てくると、やはり最初の方向付けというものが決定的に重要であったと言わなければならないし、今後もその方向付けを繰り返し確認し、さらに一層豊富化し精緻化していくことが必要だと思える。もしも、私たちがウェブ上の患者ドキュメント群を「物語」や「作品」という視点でだけ見ていたとしたら、その後、私たちのプロジェクトはどこへも行きようがなかったに違いない。 続きを読む