春宵仮想対談: sermo, Health2.0, ハッカソン

夏、秋、冬、そして春へ

客) やあ、ずいぶん久しぶりだね。
主) そういえば、前回は「真夏の架空対談」だったからな。もう、桜が満開の季節になった。
客) 前回は米国の医師コミュニティ”Sermo”売却事件の直後だったので、医師コミュニティについて徹底的に語り合ったわけだな。
主) そうそう。
客) あれから、Sermoはどうなったんだろう?
主) 夏にはダベンポートが社長を務めていたが退任し、その後、ずっと社長不在の状態が続いている。
客) 社長不在とは困ったものだな。
主) そうだ。でも、創業者のダニエル・ペールストランが辞めた時も、しばらく社長不在の時期があった。だんだんわかってきたんだが、ペールストラントは一昨年の11月にSermoを離脱している。その後、翌年の春まで、4か月ほど社長空位のまま「社長募集」というのをやっていたらしく、結局、ダベンポートに決まったということだ。
客) じゃ、今回も「社長募集」をやっているのか?
主) いや、そのうち売却先のWorldOneから人が来るのだろう。WorldOneが、Sermoをどう立て直すかが注目される。
客) その後、Sermoの業績はどうなんだ?
主) 会員数は135,000人と発表しているから、これを額面通り受け取れば、1万人増えた勘定だ。しかし、competeやQuantcastなどのデータを見ると、月間ユニーク・ビジターはほぼ1万人台。これはここ2-3年ほとんど変わっていない。実際に生きているのは、全会員のおよそ1割程度ということだ。
客) かつてAMA(米国医師会)のオフィシャルSNSのお墨付きをもらい、ファイザーの全面的サポートの表明もあり、誰もが順風満帆と確信していたことを考えると、隔世の感があるな。
主) そうだな。AMAとは決裂し、ファイザーはじめ大手製薬メーカーも、いつのまにか姿を消していた。いったい何があったんだろうと思うね。
客) それでもアメリカは、次から次に医療分野のスタートアップが登場してくるから、Sermoがどうであれ、シーン全体を見れば活況は続いているんじゃないかな。
主) そうだ。それにひきかえ日本は、医療ベンチャーシーンとりわけウェブ情報サービスがまだまだだね。いくつか面白いスタートアップも出てきてはいるが、シーン全体の盛り上がりというものがない。

日本のHealth2.0

客) 日本でも、Health2.0がその起爆剤になればと期待していたが、どうもそうならなかったような気がしていて、残念だ。そういえば、君は最近のブログ・エントリで、かなり強く東京のHealth2.0のやりかたを批判していたな。
主) 誰かが言わなければならないと思ったから言っただけだ。今、君が言ったように、日本でのHealth2.0の役割は、とにかく医療分野でスタートアップが多数出現するような状況をつくることにある。ところがその大事な役割を忘れて、「自分たちがHealth2.0なんです」と言ってしまった、自慢してしまった。これではなあ・・・。スタートアップに無関心すぎたね。
客) 自分のところの会社を売り出すためなら、自分たち一社で、広告とかイベントをやればいい。もともとパブリックな性質を持つHealth2.0というムーブメントを、プライベートに利用してもらっては困る。そして、そこから抜け落ちたのは、スタートアップ登場の起爆剤になり触媒になる、という社会的な「志」だった。 続きを読む

次世代医療に挑戦するクロスオーバーヘルス

新宿御苑の桜は満開。昼間から花見客で満員。数年前から入場門前で、ガードマンが「荷物チェック」、つまりアルコールの持ち込みチェックをするようになったが、なんとも無粋なものだ。花見酒は日本文化である。少々、羽目をはずそうがいいではないか。中には暴れる人もいるのかなぁ。私ではありませんが。

ところで、スコット・シュリーブ医師といえば、このブログでは何度も登場したおなじみのHealth2.0の論客である。最も早い時期に医師コミュニティ”Sermo”を批判して物議をかもしたりしたが、Health2.0ムーブメントの理論的中心人物として名を上げた。だが、数年前から主だった舞台からは姿を消し、クロスオーバーヘルスと名付けた次世代医療サービスの立ち上げに奔走していたはずだが、二三年前から活動が途絶え、その行方も杳として知れなかったのである。風の便りに「毎日、サーフィンをしているらしい」との噂が聞こえてきたこともあった。

昨年九月だったか、たまたま未明に目覚め、なんとなくスマホでネットをチェックしていると、なんと久しぶりにスコット・シュリーブのブログが更新されているではないか。エントリ・タイトルは”Surf Report”というものであったが、サーファーの彼らしいタイトルだなと思った。二三年前のブログには、マシュー・ホルトらが中心となったHealth2.0を批判する、どちらかといえばシニカルな言説が書かれていたのだが、”Surf Report”には、かなり前向きで活動意欲にあふれた言葉があり驚いた。 続きを読む

設問の再生: Patient Document Research

福島のスキーリゾート「アルツ磐梯」に来ている。今日から開催されたHealth2.0福島に参加するためだ。夫婦同伴で来たが、当方はイベントを、妻はスキーを楽しもうという趣向である。幸い好天に恵まれ、紺碧の空のもと、素晴らしい眺望を楽しんでいる。ところで昨日から風邪で熱がある。ここのところ1ヶ月ばかり、休みなしで仕事を続けてきた疲れが出たのか。

さて、前回のエントリでも触れたように、いよいよネット上の患者ドキュメントの自然言語解析に本格的に取り組むことになった。最近、次世代エネルギー資源として、海底のメタンハイドレードが注目されているわけだが、ニュース解説などで「従来から、有望なエネルギー資源であると衆目の一致するところだったが、どうガスを抽出し、どう実用化するかが難問であった」と言われている。やっと五年くらいで実用化する目処がついたようだが、最近このニュースを目にするたびに、「あぁ、これはネット上の患者ドキュメントとまったく同じだなぁ」と思うのである。

ネット上に公開された患者ドキュメントは、TOBYOが可視化したものだけでも、4万サイト、500万ページ、30億ワードという分量に達している。繰り返すが、このように大量の医療体験が公開されたのは、史上始まって以来のことである。また、このデータが医療業界、行政、マーケティング、研究などさまざまの分野で非常に価値があることは、誰も異論を挟む者はいないだろう。しかし、メタンハイドレードと同じように、このデータからどう有用な情報を取り出して、どう実用化するか、という点が難問なのであった。 続きを読む