医療評価と患者の感情表出ワード

ronion

前回エントリ「患者エンゲージメント」で「患者の感情の指標化」ということに触れたが、最近、このことをあれこれ考える機会が多い。特に私たちが注目してきた患者体験ドキュメントの基本性格というものは、「患者感情の表出」を抜きに考えることはできない。

私たちはこれまで、患者体験ドキュメントを患者が体験した「事実」を中心に見てきた。従来、どうしても「闘病記」という言葉で表されるドキュメントには、ある種の過剰な思い入れがつきまとい、それは時として「センチメンタルな物語」という形式に矮小化されてしまい、患者が体験した「事実」の客観的な意味を見失わせてしまいがちであった。

そうであるからこのブログでは、事実の連続体として患者体験ドキュメントを捉え、とりわけ固有名詞に注目し、なるだけセンチメントから距離をおくことを再三表明してきたわけだ。やがて、その成果はdimensionsというツールに実を結ぶ事になる。dimensionsは固有名詞をキイとして事実を抽出し集計するデータ・ツールである。 続きを読む

患者エンゲージメントの時代

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昨年後半頃からだろうか、患者エンゲージメント(Patient Engagement)という言葉が、海外、特に米国の医療関係ブログやメディアなどで盛んに使われはじめ、今やバズワードになっている。だがその中身ははっきりしない。明確な定義もないままに、勝手に言葉だけが一人歩きしているような具合である。

調べてみると、どうやら2006年に米国広告リサーチ協会が新しい広告効果指標としてこの「エンゲージメント」を提唱したことが発端になっているようだ。マスメディア時代のレガシー広告指標に代わるものとして「エンゲージメント」が登場したわけだが、これは従来のともすればクライアント発想に立つ「リーチ、フリーケンシー、GRP」など効果指標を、消費者の主体的な態度としての「ブランドへの愛着、きずな」などブランドと消費者の関係性に関わる「感情の指標化」をめざすものであった。

このようにもともと広告やコミュニケーションの新しい効果指標として登場した「エンゲージメント」だが、その後、マーケティング調査会社などで医療分野でも「患者エンゲージメント」として研究開発がおこなわれてきた。たとえば、世論調査で有名なギャラップ社も患者エンゲージメント調査に積極的に取組んでいる。ギャラップ社の場合、ピッカー研究所が開発した患者経験調査をもとに数年前から米国政府が実施している全国病院患者経験調査(HCAHPS)に、独自の患者エンゲージメント指標を加えた調査サービスを医療プロバイダーに提供している。

このギャラップ社の調査サービスにおいても、やはり患者の医療機関に対する感情的な結びつきを明らかにすることが調査目的に挙げられている。これらは従来の満足度調査や経験調査に代わる、新しい消費者(患者)調査として構想されているようだ。つまり、患者や消費者のブランドに対する態度測定尺度は「満足-経験-エンゲージメント」と移動してきており、それにともない高度な患者エンゲージメントを創造することが医療機関の主要マーケティング課題になってきているとされる。 続きを読む

患者ドキュメントによる医療評価

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先週は嵐。今週は花吹雪。花も嵐も踏み越えて行くが男の生きる道。いささか古いか・・。

ひたすら闘病ユニバースの可視化とデータ収集に励んできた4年間だったが、dimensions、CHART、TDRと開発は進んできた。最近、もう一度私たちが目指してきたことをあらためて確認しなおす必要があるような気がしている。今の時点で、私たちが目指してきたことを短く言えば、それは「患者ドキュメントによる医療評価」ということではないかと思う。これを実現するためには、とにかく患者ドキュメントを大量に集めなければならなかった。そしてデータ量が確保されたら、次にそれを使って「評価」というものを生成しなければならない。これは「データを評価へ変換すること」とも言える。

dimensionsはその変換のための基本ツールであったが、それはまだ「評価」自体を提示するものではなかった。ユーザーの多様な目的に即して自由にデータを抽出するツールであり、特定の「評価」を出力するためのものではなかった。開発当初は、このような多目的ツールであることがユーザーのニーズに合致するものだと想定していた。

そして先月から本格的に取り組んでいる「がん闘病CHART」では、だんだん「評価」へ踏み込んだ出力というものをイメージするようになってきている。それはユーザーの自由度にある種の制限を設けて、一定のフレームでデータを見ることによって実現されるものだ。データの解釈が全面的にユーザーに任されているような状況では、「評価」はユーザー自身の手に委ねられている。たとえばマーケティングや製品開発などプロフェッショナルな仕事をしている人達であれば、本来なら医薬品や治療法など、ある事象に対する「評価」はツールを使ってデータを検討しながら自分自身で行うべきだろう。またそのような技量と経験を持つがゆえに「プロ」であるとも言える。 続きを読む

開発中「がん闘病CHART」のフィルタリング機能

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現在、クチコミ検索エンジン「がん闘病CHART」デモ版を開発中(上図:サイト数等ダミー)。まだデザインなどはラフなイメージ段階だが、ネット上に公開されたがん闘病サイトのうち「乳がん、胃がん、肺がん、大腸がん」について、「検査・診断、治療法、薬、病院、闘病生活」の各ジャンルで、患者が最も話題にしているクチコミ・キイワードをランキング・チャート形式で可視化する。

チャートインしているキイワードをクリックすれば、バーティカル検索エンジンの検索結果が表示される。さらに、検索結果をそれぞれのジャンルに応じた絞りこみ項目でフィルタリングすることができる。このフィルタリング項目の設定が、このサービスの肝になると考えている。

たとえば薬CHARTでは「副作用、費用、処方」のフィルタリング分野を用意している。「副作用」分野を見ると「吐き気、嘔吐、アレルギー反応、発熱、食欲不振、倦怠感、下痢、便秘、腹痛、脱毛、口内炎、白血球減少、手足のしびれ、皮膚や爪の黒ずみ、貧血、関節痛」など、かなり細かくフィルタリング項目を設定している。検索結果画面には各フィルタリング項目ごとのヒット件数も表示される。一口に「副作用」といっても、実際の患者体験に基づくクチコミをここまで細部まで可視化するのは、おそらくはじめての試みではないかと思う。 続きを読む

仮想対談:「 ビッグデータ、Patient Portal」

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客) ようやく、春らしくなってきたね。

主) 今朝、石神井公園を歩いたが桜はまだだ。新宿と違って、こっちは梅はだいたい終わったね。あちこちでウグイスが鳴いていたな。

客) ところで、TOBYOの収録サイト件数も3万4千件まで来たね。当初、「闘病ユニバースは約3万サイト」と推定していたけれど、もうそれを越えてしまった。

主) 今の時点で、だいたい5万サイトまで見えている。昨年あたりから、ブログで闘病体験を書く人は増えていて、中身も充実したものが多いような気がする。最近、特に印象に残ったものでは、先日、3月11日名古屋ウイメンズ・マラソン2012を走った乳がん患者の「メモ」というブログがある。これは質・量ともにすばらしい。

客) タイトルが「メモ」と素っ気ないが、中身はすごいね。乳がん患者になった人に、まず読むようにすすめているブログだ。

主) 最近の闘病ブログは全体としてかなりクオリティが上がってきている。自然発生的にネット上に生まれた「闘病ユニバース」だが、やっぱりそれ自体の歴史というものがあり、進化してきているのかもしれないね。

客) 誰かが最初に開発した闘病ドキュメントのフォームがテンプレートとして利用され、やがて、次々に新しい工夫が加えられるような「継承と発展」みたいなことが起きているのか。 続きを読む