患者のクチコミによる医薬品評価

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私たちと同じようにネット上の患者の生声を収集し、そこから新しいサービスを生み出すことをめざしているイスラエルのFirst Life Researchだが、医薬品の副作用にフォーカスした、患者のクチコミによる医薬品評価サービス“Treato”を開始した。この前まで、たしかバーティカル検索エンジンを公開していたはずだが・・・・いろいろ苦労しているようである。

しかし英語圏すべてを対象にしているとはいえ、なんと集めた患者コメントが10億件(!)。これはすごい。すごいのだが、試しに薬品の副作用情報をいくつか検索してみると、10億コメントにしては検索結果件数が少ないような気がする。これは以前も触れたことがあるが、First Life Researchが集めている患者の声はほとんどがディスカッション・ボードのコメントなので、そのあたりに限界があるのかも知れない。

だがこのサービスは、前エントリで書いておいたdimensionsのカスタム・サービス「医薬品評価サービス」の参考になる。distillerが抽出する特定薬品の体験事実群を副作用に特徴的なワードでフィルタリングするか、あるいは特定ワードの共起ルールを作ってマイニングしてもよいだろう。

いずれにせよ、医薬品を実際に体験しているのは医療者ではない。患者である。そのことを忘れてほしくない。そして、その声を中間項抜きでダイレクトに聴くことが必要であり、そのツールがdimensionsだ。 続きを読む

dimensionsのカスタム・サービス

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国内初の患者体験データベースにして患者リスニング・プラットフォームであるdimensionsは、以前にも触れたようにベーシックとカスタムの二つのサービス・メニューから成っている。ベーシックは病名ごとのバーティカル検索と諸条件によるフィルタリングが可能な全文検索エンジン「X-サーチ」、そして固有名詞出現を病名、薬品、医療機関、検査・機器、治療法の五つの次元でリスト出力する「distiller」の二つのツールによって構成されている。

dimensions本体は400万ページの患者体験ドキュメントのデータベースと付属検索機能としての「X-サーチ」であり、distillerはそのデータベースの出力ツールの一つという位置づけになり、今後はdistiller以外にもツールを増やしていきたい。

対してカスタム・サービスだが、これは患者体験データベースからユーザーのリクエストに応じ、さまざまな形でデータ出力をしていこうという考え方であったが、どうも漠然としすぎており、標準メニュー化が必要だと思っていた。そこでカスタム・サービスの標準メニューとして、当面、次の二つのサービスを追加する。

1.患者サマリー

個々の患者ヒストリーをワークシート一枚に時系列で切り出し、個別サイト検索機能を付加する

2.テキストマイニング・レポート

特定病名の患者ドキュメント集合からキイワードを抽出、数量化、集計の上、相互関係と患者評価を視覚化

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リスニング・リサーチの時代へ

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リスニング・リサーチの決定版教科書とも言うべきステファン・ラパポートの“Listen First !”だが、やっと日本語訳の来年三月出版が決まったようだ。まだまだ日本では「リスニング」ということの認知が低いが、来年からこの本をはじめとして広く知られるようになるだろう。

というか当方など、この夏からあちこちでいわばリスニングの啓蒙プレゼンをやっているようなものだが、この「リスニング」という言葉に対する反応は、意外感はあっても納得感にはまだ遠いというのが現状だ。どうやらレガシー調査のフレーミングを脱するには、今少し時間がかかりそうだ。

dimensionsは日本で初の患者の生声を傾聴するためのリスニング・プラットフォームであるが、プラットフォームと呼ぶにはまだその最小限の機能を実装したにとどまる。むしろ現状は「患者体験のデータベース」と言う方が近いだろう。データベースだからとにかく全文検索機能がなければ話にならない。dimensionsはこれに医療分野キイワードごとのデータリスト出力機能を備えている。 続きを読む

ニュートン力学の調査から量子力学の調査へ

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日に日に秋は深まってきた。新宿御苑プロムナードを散歩していると、小川の傍らにホトトギスが咲いていた。白地に紫が点在する花が群生するありさまは、ひときわ御苑プロムナードでも異彩を放っている。そういえば正岡子規の雅号「子規」は、ホトトギスの異称であるらしい。だがこれは鳥のホトトギスである。最近、プレゼンテーションでたびたび正岡子規に触れることがある。

さて、このブログではずっとHealth2.0についての紹介や考察をポストしてきたが、今年に入って春先からリサーチ・イノベーションを取り上げる機会もふえている。患者体験データベースであるdimensionsの背景説明をするためには、単にHealth2.0の流れだけではなく、もう一本の流れとしてリサーチ・イノベーションを加える必要があったのだ。この二つの潮流が合流する地点にdimensionsが存在するのだから。

だがこの二つの潮流の源泉というものを考えてみると、実は同じ源から二つの流れが生じていることがわかる。その源とは、とりわけウェブ社会に生起した「知の地殻変動」ということになるのではないか。医療であれ調査であれ、ウェブ社会の成立以降、それぞれの領域の「知」のありかたが根底的に変わってしまったのだ。19世紀から20世紀にかけて、物理学の世界で「ニュートン力学から量子力学へ」という転換が起きたのと同じような変化が、ウェブ社会の成立をトリガーとして医療や調査の領域で起きているのではないだろうか。

調査領域を考えてみると、確率論をベースに組み立てられた従来のレガシー統計理論に、近年疑いの目が向けられている。欧米で大ベストセラーとなったナシーム・ニコラス・タレブの「ブラック・スワン」は、これらレガシー統計理論の外部に存在する不確実性とリスクに目を向けたが、マーケティングと調査の世界でもこの本の影響は予想以上に大きかったようである。たとえばこの春、調査業界で「P&Gショック」と呼ばれ衝撃が走ったP&G社のレガシー調査からの撤退宣言であるが、これをおこなったP&Gのマーケット・リサーチ責任者はきっと「ブラック・スワン」を熟読していたに違いない。 続きを読む