診療の現場をまるごと可視化: ダイアローグ・リサーチ

Verilogue

早いもので10月も今日が最後。明日から11月だ。夜毎に虫の声も少なくなったが、静かな秋の夜長をゆっくり過ごすのも楽しいものだ。

さて、私たちが開発したTOBYO dimensionsは、端的に言えばネット上に患者が公開したドキュメントに基づく患者体験データベースであり、また、日々更新され膨張を続ける闘病ユニバースを継続的に傾聴するためのリスニング・プラットフォームでもある。このような医療情報の集め方は従来にないものだが、医療を可視化するという意味では、他にも方法はあるはずだと考えたりしていたが、とうとう画期的な方法が登場した。

それは「ダイアローグ・リサーチ」つまり「対話」の調査である。この「対話」とは、診察室で実際に交わされる患者と医師の対話のことだ。2007年に起業したVerilogue社は、診察室でやりとりされる「患者-医師」対話をまるごと録音し、そのデータをインサイトへ変換し”point-of-practice”との商標のもとに製薬企業や医療マーケティング企業へ提供している。「診療の現場」というこれまで人目に触れなかった「聖域」まで可視化するという意味では、最近日本で議論されている「検察や警察の取調べ現場の可視化」と通底するものがあるかもしれない。

同社ではすでに70疾患、6万件の診察室での「患者-医師」対話データを蓄積しており、現在40社以上の製薬企業をビジネスパートナーとして獲得している。また一方ではB2Cビジネスとして、これらデータを使って「CareCoach」 という消費者向けサービスもはじめている。なるほど「患者-医師」対話データは、プロフェッショナルだけではなく、たしかに消費者・患者にも役立つデータだ。 続きを読む

医療をロックするインキュベータ: Rock Health

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前エントリで米国Health2.0シーンの活況ぶりに触れたが、その後出たデータを見ると、第三四半期(7月-9月)におけるベンチャーキャピタルの医療ITスタートアップに対する投資総額は2億3百万ドルで、これは第二四半期(4月-6月)の6千6百万ドルの約三倍になっている。同時に、医療IT企業間のM&Aも活発に行われており、第三四半期は総額47億ドルに達している。

第三四半期における、主な医療ITスタートアップのVCからの資金調達は以下のとおり。

  • ZocDoc          7500万ドル
  • Awarepoint       2700万ドル
  • CareCloud        2010万ドル
  • One Medical Group  2000万ドル
  • SeeChange Health   2000万ドル

おもわずヨダレが出そうな状況だが、これに加え、米国政府のスタートアップ支援によるイノベーション促進政策を追い風として、医療ITスタートアップ支援へ向けたインキュベータ組織&個人が次々に立ち上がっている。

・The Startup Health, Jerry Levin

・Entrepreneur and philanthropist Esther Dyson

・Digitas Health Co-founder Linda Holliday

・Health 2.0 co-founders Matthew Holt and Indu Subaiya

・Blueprint Health

・Health technology startup accelerators Rock Health

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米国Health2.0はバブル段階に来たのか?

Rock Report: State of Digital Health

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現在、米国ではHealth2.0をふくめ医療ITシーン全体がこれまでにない活況を呈しているようだ。明日、東京で開催されるHealth2.0 Tokyo Chapterでもこのことは報告されるだろうが、最近、米国のHealth2.0関連のブログやニュースサイトから毎日のように聞こえてくるのは景気の良い話ばかりで、「ホンマかいな?」と我が耳を疑うほどである。米国のHealth2.0シーンは、ついに「バブル段階」に来たのだろうか。

まず、医療システムの効率化とコストダウンを目指し、米国政府が大規模資金を医療IT市場に投じ、医療におけるイノベーション促進を加速していることが背景にあるが、この動きに合わせるように、今年に入ってベンチャー・キャピタルも医療IT関連のスタートアップ企業(ベンチャー企業)にこれまでにない投資を加速している。さらにこれらに刺激され、スタートアップ企業の関心が医療分野に集まり、起業件数も大幅に増加。このような好循環がシーン全体に活気を与えている。他分野と比べると規模はまだまだ小さいかも知れないが、これまでの医療ITの停滞ぶりを考えるとこれはもう「バブル」と呼べるかもしれない。

これらHealth2.0のベンチャー企業とベンチャーキャピタルの動向を要領よくまとめ上げたレポートが公開された。「デジタル医療分野におけるサンフランシスコのシード・アクセラレータ」を自称する「Rock Health」が発表したスライド「State of Digital Health」(上図)である。

これを見ると、アーリー・ステージにある110社の資金調達状況では、84%が自己資金、13%がエンジェル・ファンド、そしてわずか2%がベンチャー・キャピタルからとなっており、60%が5万ドル以下の資金で起業している。また、起業する上で困難な障害の第一位は「資金調達」となっている。

さらに「(医療IT分野で)起業した動機」では「この世界を、より健康な場所にしたいから」との回答が一位、「一人の消費者として(医療が)壊れたシステムに見えたので、これを修復したい」が二位、「自分が見たところ、医療IT分野にはイノベーターがいない。退屈なんだ。」が三位になっている。興味深い。 続きを読む

患者の語り2.0: MyHealthStory.me


患者、家族、医療者の医療体験をビデオで傾聴する新しいリスニング・プラットフォーム“MyHealthStory.me”のベータ版がローンチされた。このプロジェクトはオランダのラドバウド・ナイメーヘン大学医療センターが主催し、Google Healthプロジェクトのリーダーを務めGoogleの医療戦略部門チーフであるロニ・ザイガー、ACOR(Association of Cancer Online Resources)のファウンダーであるジャイルズ・フリードマン、そしてe-patients.netのe-Patient Daveらが参画している。

これまでも「患者の語り」をビデオで公開するサイトはあったが、このMyHealthStoryがユニークなのは、患者、家族、医療者らが自分で撮った医療体験ビデオをYouTubeの自分のアカウントへアップロードし、クローラがそれをアグリゲートした上、最終的に医学生のキュレーションを経てサイト公開する点だ。

YouTubeへアップロードした自分の医療体験ビデオには、ユーザーが“Myhealthstory”とのタグを付け、これをMyHealthStoryのクローラーが自動判別し、ビデオのエンベッド・リンク・データだけを持ち帰るような仕組みになっているようだ。

これらのシンプルでしかもクールな仕組みによって、サイト側で映像データや映像ツールを持つ必要がなく、まさに軽量かつ低コストでサービスが提供できるわけである。もちろんビデオ撮影などにともなう制作費用や時間も、ユーザーが負担するからコスト・ゼロである。つまりUGCのメリットを最大限利用することによって、まさに「患者の語り2.0」を実現しているわけだが、患者だけでなく「医療者の語り」を公開するところも注目される。 続きを読む

データ・ルネッサンス

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スティーブ・ジョブズ逝く。享年56歳。その偉大なチャレンジ精神に敬意を表し、ご冥福を祈りたい。

この春からMacBook Airを使いはじめたが、たしかにこのユーザー・エクスペリエンスは、Windowsマシンで得られることはないものだ。そう言えば、昔、AppleⅡ j-Plusを大枚はたいて買って以来だから、実はもう30年近いAppleユーザーであるとも言えるのだが、その間、長期にわたってDOS→Windowsがメインになっていた。AppleⅡはまだ押入れにしまったままで、「そのうち定年になって時間ができたら、いろいろいじって遊んでみよう」などと考えていた。しかし、その「定年」近い年齢になって、まさか「ベンチャー」をやっていようとは思ってもいなかった。

さてdimensionsはやっとありがたくも成約段階まで来たが、その後いくつか改善点が判明し、現在そのための最終チューニングに取り組んでいる。また昨年来、このブログであれこれdimensionsの価値や意義というものを思考実験してきたが、最近考えているのは前回エントリでも触れた「ビッグ・データ」との関係である。

たしかに、TOBYOからdimensionsへ続く私たちのプロジェクトは、ビッグ・データをめぐる今日の「データ・ルネッサンス」と交差していくことになるだろう。日々、おびただしい量の患者体験ドキュメントが生み出されネットに公開されているが、このような人間が作る医療データだけではなく、今後は各種センサーやガジェット類など、機械が医療データを量産し、ネット上に大量に自動送出することになるだろう。この両方の医療ビッグ・データをアグリゲートし構造化するサービスが求められるわけだが、もちろん私たちのdimensionsはその一翼を担うものであると考えている。

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