「ビッグ・データ」の胎動

Big_Data

今週サンフランシスコで開催されたHealth2.0カンファレンスで、「ビッグ・データ」という言葉に注目が集まったらしい。そう言えば、この春頃からこの言葉はあちこちで目につき、気になっていたのだが、どうやらその出所はマッキンゼー・グローバル・インスティチュートが5月に発表したレポート“Big data:The next frontier for innovation,competition,and productivity”であるようだ。 このレポートでは特に医療におけるビッグ・データの価値について言及しており、米国医療における潜在的な価値は年間3000億ドル、医療支出削減効果は年間8%としている。

今回のHealth2.0カンファレンスでは、主催者のインドゥー・スバイヤ氏がビッグ・データについて特に発言し次のように述べている。

“This year at Health 2.0 I think we’re beginning to see technologies really for the first time doing that intelligent mining, archiving, presenting and visualizing of this information,” (Health2.0 News “Experts Weigh In on Big Data Tools”)

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Patients 2.0

Patients2.0

先週は台風のため大阪で立ち往生した。帰りの新幹線が全面ストップとなり、やむなく大阪で一泊することになった。それでもかつての後輩と、久しぶりに楽しくビールを飲みながら語り合えてよかった。中之島界隈は高層ビルが立ち並び、すっかり景観が変わってしまい驚いた。

さて、昨日からサンフランシスコではHealth2.0カンファレンスが開幕している。今年は新たにPatients2.0というムーブメントが立ち上げられたようだ。これはサンディエゴの春季カンファレンスでキックオフされたムーブメントで、「ブランディング・ワークグループ、データ・ワークグループ、ペイシェンツ・ニーズ・ワークグループ」の三つのワークグループから成っている。Health2.0ではおなじみのジェーン・サラソーン=カーンがまとめ役をしているようだ。

なかなかユニークなムーブメントで、従来の患者会等とはだいぶイメージが異なるようだが、今更言うまでもなく、本来Health2.0の主役にして中心に位置するのは患者であるべきはずだ。しかしどちらかと言えば、これまでのカンファレンスでは患者は単独の主役としては登場していなかった。それがようやく「主役」として登場しようとしている。これはHealth2.0ムーブメントにとって大きな出来事だ。Patients2.0ムーブメントの今後に注目したい。

日本でも来月、第三回目となる”Health2.0 Tokyo Chapter”が開催される。昨夏、六本木ヒルズで開かれて以来、久しぶりの開催となる。その後、どんな新しいスタートアップ企業が登場しているか楽しみである。またこれは当方の勝手な希望だが、可能であれば何らかの形で「主役」の患者が登場して欲しいと思う。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

糸瓜忌

子規庵

今日は正岡子規の「糸瓜忌」である。1902年(明治35年)9月19日、享年34で子規は死去した。辞世の句とされるのは以下の句である。

糸瓜咲て痰のつまりし仏かな

痰一斗糸瓜の水も間にあはず

をとゝひのへちまの水も取らざりき

たまたま昨日、妻と墓参のついでに根岸の子規庵へ寄ってみた。座敷と続き間の書斎からのぞむささやかな庭には、糸瓜、鶏頭、芙蓉をはじめ多数の草花が植えられ、四季を通じ見飽きることはないと思われた。そして子規はこの庵で結核療養の日々を過ごし、闘病記「病牀六尺」「仰臥漫録」を書いた。日本近代文学に闘病記という新しいジャンルを切り拓いた作品と言われている。

子規没後110年経って、多くの闘病ドキュメントがウェブ上に公開され、闘病ユニバースという膨大なデータ空間を形成するに至っている。これはおそらく日本だけの現象だと思われるが、その原点に子規の優れた闘病記録があったことが大きかったのではないかと、ひそかに考えることがある。

TOBYOもdimensionsも、正岡子規の闘病生活の端正なセンチメント抜きの写生がなかったら存在しなかっただろう。偉大な才能に感謝。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

Health2.0の再構築: スコット・シュリーブの場合

CrossoverHealth

前回エントリでスコット・シュリーブの野心的なチャレンジ”Crossover Health”を紹介したが、その後、この新しい医療提供サービスのことをあれこれ考えているうちに、スコット・シュリーブに触発されて、Health2.0が直面するさまざまな問題をかなり明確に把握できるような気がしている。たとえばこれまで私たちは、ともすればHealth2.0をWeb2.0のアナロジーで説明するような、きわめて雑な手つきで扱ってきたのではなかったか。このことは間違いであったと思う。

スコット・シュリーブは、昨年初頭、Pew Internet & American Life Projectのスザンナ・フォックスが発表したエントリ”What’s the point of Health 2.0?”を「非常に限定されたHealth2.0定義に偏っている」と批判し、次のように述べている。

「私は、これまでいつもHealth2.0を”ムーブメント”として見てきた。そして、それはテクノロジーによって多くを定義されるものではなく、むしろテクノロジーが可能とすることによって定義されるものである。”enabler”(イネーブラー:可能とするもの)としてのテクノロジーは、人々が新しいことを新しい方法ですることを助けることができる。しかし私は、テクノロジーそれ自体が、真に医療、健康行動、あるいは医療供給自体を変えるパワーを持つとは信じていない。」(“Getting Real: Can Health 2.0 Stay Relevant?”

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医療を変える会員制医療提供サービス: Crossover Health


ここ数年、Health2.0ムーブメントをウォッチングしてきたが、今や世界的な広がりを持ち始めたこのムーブメントの中心的理論家は、ファウンダーのマシュー・ホルト氏でもインドゥー・スバイヤ氏でもない。それはスコット・シュリーブ医師である。2006年暮れ、ドミトリー・クルーグリャク氏をはじめとする”Health Train”グループとHealth2.0グループの論争が勃発したが、Health2.0のアウトライン・ロジックを構築し戦略的方向性を提起して論争を征したのがスコット・シュリーブ医師だった。

その後、マシュー・ホルト氏はHealth2.0のコンセプトとして「アンプラットフォーム」を新たに打ち出したが、これはどうも精緻さに欠け、さしたる成果をあげていないように見える。昨年秋、SFカンファレンスで発表されたHealth2.0発展サイクル論も、どうも牽強付会の感が強すぎ、新しいものが何も提起されていないように思えた。

そこで当方など、もっぱらスコット・シュリーブの言動に注目してきたわけだが、昨年来、主だったステージから忽然と姿を消してしまった。だがこの間、スコット・シュリーブはまったく新しい医療提供サービス“Crossover Health”の開発に取り組んでいたのである。

そう言えば、スコット・シュリーブはオープンソースEHR”WorldVista”開発に参画し、またDTC検査サービス“MyMedLab”の起ち上げにも参画していた。卓越した理論家であるばかりでなく、優れた実践家であり起業家でもあるわけだ。 続きを読む