PHRで患者と医師をつなぐ:NoMoreClipboard

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これまで医療ITシステムと言えば、EMRやEHRなど医療機関側の情報システムを指すと考えられてきたが、HealthVaultやGoogleHealthの登場によって、PHRこそが「患者中心医療」や「参加型医療」を体現するものとして注目されはじめてきている。ところで、HealthVaultやGoogleHealthなど、個人医療情報のプラットフォームとしての大規模PHRは一応登場したわけだが、今後はそれらPHRプラットフォームと生活現場あるいは医療現場を結ぶきめ細かいサービスの開発が求められる。

今月18日、新たに発表されたPHRサービス“NoMoreClipboard”は、このようなきめ細かい「現場」とのマッチングを意図して開発されたようである。PHRを介して積極的に患者と医師を繋ぐことをめざしているところが注目される。特に医師側のワークフローと患者情報を効率的に結びつけることがうたわれており、PHRをベースにした医療現場の生産性向上を打ち出している。 続きを読む

闘病体験データの社会的活用についての考察

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先週から風邪でダウンし、しばらくブログもお休み。しかし自宅で静養しながらも、いつのまにかTOBYOプロジェクトやウェブ医療サービスについて、つい「あーだこーだ」と考え込んでしまっていた。

「ネット上のすべての闘病体験を可視化する」ことがTOBYOプロジェクトのミッションであるが、この可視化作業の過程で蓄積された数百万ページの検索キャッシュによって、今度は医療を可視化していくことになる。つまり「患者の目」を通して、日本の医療実態がはじめて大規模に可視化されるわけだ。では、このように大規模に可視化されたファクト(事実)群は、社会的にどう活用されるのだろうか。

これまで「コンシューマ・サービスとプロフェッショナル・サービス」という文言で、TOBYOのコアデータの活用領域を述べてきたが、プロフェッショナル・サービスはさらに医療提供者に向けたものと、医療関連市場プレイヤーに向けたものに分けられるのではないか。そうなると結局TOBYOによって蓄積されたコアデータは、社会的には次の三方向へ提供されることになる。 続きを読む

海外動向と今年のTOBYO

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新年になって海外のHealth2.0関連ブログをざっと見てみたが、新規性のあるプロジェクトやテーマはあまり見つからなかった。だが、今年はHealth2.0コンファレンスが3回も予定されている。4月にパリ、6月にワシントン、そして10月にサンフランシスコ。特にパリ・コンファレンスだが、ヨーロッパでHealth2.0がどのように受容されるかが興味深い。しかし、2007年秋に第一回が開催されてから、今年でHealth2.0コンファレンスも四回目になるが、PatientsLikeMeやSermoに続く成功事例が出てこないのが気になる。昨秋ローンチされたアダム・ボズワースのkeas(キーアス)あたりに期待したい。

さて新年になって、Microsoftの検索エンジンBingが医療情報検索時のパワーアップを図ったようだ。まだ米国だけのサービスのようだが、病名などをキイワードに検索すると、関連症状、関連薬剤、関連医療機関のリストが表示される。さらにたとえば医療機関を選択すると、医療機関プロフィール、HHSが公開している当該病院の患者満足度データ、そして近隣医療機関などが表示されるなど、通常の検索結果以外に特別の医療関連情報を表示し、スピーディーで適切な医療情報検索を目指している。

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新春のブラック・スワン

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昨年読んだ本の中で最も印象に残る一冊は、間違いなくタレブの「ブラック・スワン—-不確実性とリスクの本質」(ダイヤモンド社)だった。かつて「ガウス曲線のベル型カーブを頭に生やし」て仕事をしていた自分にとって、この本はまさに「ベル・カーブ、この壮大な知的サギ」(同書第15章)という事実を「これでもか!」と突きつけるものであり、そこに爽快感があった。

「ブラック・スワン(黒い白鳥)」とは何か?

むかし西洋では、白鳥と言えば白いものと決まっていた。そのことを疑う者など一人もいなかった。ところがオーストラリア大陸の発見によって、かの地には黒い白鳥がいることがわかった。白鳥は白いという常識は、この新しい発見によって覆ってしまった。
「ブラック・スワン」とは、この逸話に由来する。つまり、ほとんどありえない事象、誰も予想しなかった事象の意味である。タレブによれば、「ブラック・スワン」には三つの特徴がある。一つは予測できないこと。二つ目は非常に強いインパクトをもたらすこと。そして三つ目は、いったん起きてしまうと、いかにもそれらしい説明がなされ、実際よりも偶然には見えなくなったり、最初からわかっていたような気にさせられたりすることだ。 (同書「内容紹介」より)

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e-Patientsと参加型医療

The Quantified Patient from e-Patient Dave deBronkart on Vimeo.

昨年のHealth2.0ムーブメントで特筆すべきことは、ベンチャー企業、IT企業、医療界など従来プレイヤーの他に、新たにe-Patientsと呼ばれる消費者・患者グループが参画してきたことだろう。旧来の患者会やアドボカシーなどとは違い、ウェブを積極的に活用して患者参加型医療の実現をめざす新しいタイプの医療消費者群が登場したわけだ。

この中心的存在が、これまで当ブログでもたびたび紹介してきた”e-Patient Dave”率いる”e-Patients.net”であり、昨年、このグループが中心になり「参加型医療学会」が結成され、このほど学術誌「Journal of Participatory Medicine」が創刊された。彼らがHealth2.0ムーブメントに参画してくることによって、Health2.0は新たに「参加型医療」という次世代医療のビジョンを獲得したのだと思う。 続きを読む