立川幸治教授とイマヌエル・カント

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今月の初め名古屋へ出張し、名古屋大学医学部の立川幸治教授を訪ねた。立川先生とはこれまで何回かメールのやり取りがあり、そのユーモアあふれるメールを拝見して「おもしろい方だな。ぜひお会いしたいな」という思いがまずあり、また、かつて歴戦練磨のベンチャー経営者としての経歴もお持ちの方であり、とうとうこちらから名古屋まで押しかけて研究室までお邪魔した次第である。

研究室のソファに座るといきなり質問の矢が飛んできて、それから時間があっというまに過ぎた。TOBYOや医療ベンチャーに関して、またご専門の事業経営論など、非常に中身の濃い充実した意見交換をさせていただいたが、その中で立川先生が述べられたいくつかの言葉がいまだに頭を離れない。まず一番感銘を受けたのは次の言葉だ。

「人はリソースではない」

企業経営を考える場合、一般に「人、モノ、金」が基本的な経営資源であると言われているが、立川先生のこの言葉は、これら通俗的な「経営資源」観を再考させるものだと思う。ビジネスの現場では、日常的に「人的リソースが・・・」などと言ってしまうことが多いのだが、立ち止まってよく考えてみると、なるほど人を「モノ、金」と同列に扱うのはたしかにおかしい。しかし、だからと言って、人のリソース的側面を否定してしまえば、はたして「経営」という観点は成立するのだろうか。一方では、そのような疑問も立ちあがる。 続きを読む

バーティカル検索エンジンの現在

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TOBYO事典は世界初の「闘病体験のバーティカル検索エンジン」である。まだテスト版段階ではあるが、今後これを一層精度の高い使いやすいものへと改良していくことが、TOBYOプロジェクトの中でも優先順位の高い仕事だと考えている。

ところが残念なことにバーティカル検索エンジンというもの自体が、日本ではまだ認知が低いのである。最近ようやく、求人情報や不動産情報のバーティカル検索サービスが登場してきているが、米国の状況とはまったく比較にならないほど数少ないのである。医療情報のバーティカル検索エンジンを見ても、米国では掃いて捨てるほど数多く存在し、それぞれ特色を出そうと競争している。TOBYOの場合は、医療情報と言うよりも闘病体験にフォーカスしているのだが、日本でも医療情報のバーティカル検索エンジンがどんどん登場してきてほしいものだ。 続きを読む

書評:2011年新聞・テレビ消滅(佐々木俊尚、文春新書)

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まさに雪崩を打ってマスコミ崩壊は進行している。昨秋「次世代マーケティングプラットフォーム」(湯川鶴章著、ソフトバンククリエイティブ)の書評を書いた頃、この崩壊はすでに始まっていたのではあるが、そのことをあからさまに明言するには、誰しもまだ一抹の躊躇があったと思う。だがそれから半年以上経過した現在、最早、この崩壊を疑う者は誰一人としていないにちがいない。だからこの「2011年新聞・テレビ消滅」は従来の類書とは異なり、なんの躊躇も、遠慮も、控えめなインプリケーションもなく、ありのままの崩壊をただありのままに、可能性としてではなく「事実」として真正面から描いている。そのいささかの躊躇もない、勢いのある筆致に、まず爽やかさを感じたのである。そして、筆者も述べているが「マスコミが崩壊するかどうか」ではなく、「崩壊後、どうするか」こそがすでに問題になっているのだ。

春先、当方への毎日新聞記者の取材について、少々きついエントリを書いたことがあったが、他紙も含め、昨年来、当方が取材を受けた新聞記者の取材能力の劣化ぶりには驚くべきものがあった。まず、とにかくネットリテラシーが低すぎて、「この程度のネット理解で記事が書けるのか?」と何度も深く懸念せざるを得なかったし、さらに金を払ってその記事を読む読者のことを考えると、もう「悲惨」としか形容できないのであった。だが、これらマスメディア品質劣化の諸相をあげつらうにとどまらず、むしろ本書はビジネスモデル自体がどう考えても崩壊ストーリーに行きつくと主張している。この点の精緻な考察が、一般的なマスメディア慨嘆に終わらず、「マスメディア崩壊後の社会」へと読者の視線を誘うところに本書の価値があると思った。 続きを読む

April in Paris

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ジャズのスタンダードナンバーそのままに、ヨーロッパ初のHealth2.0コンファレンスが来年「四月のパリ」で開催されることが発表された。場所はパリの学生街「シテ・アンテルナショナル・ユニヴェルシテール・ドゥ・パリ」。(ビデオは「四月のパリ」エラ・フィッツジェラルド。素晴らしい!)

コンファレンス・アジェンダは以下の8つからなる。

  1. サーチ&コンテンツ
  2. 患者SNS
  3. 医師SNS
  4. コンシューマー・ツール
  5. 患者-医師オンライン・コミュニケーション
  6. プライバシー、データ、信頼性とHealth2.0
  7. 政府見解
  8. 医療界と医療機関

この中で、明らかにヨーロッパ向けにアレンジされたアジェンダは上記6および7だと思われる。今年に入って、米国Health2.0コミュニティでは「医療情報の流動性の確保」論などが強調され、旧来のプライバシー保護団体の過剰なプライバシー保護論に対する批判が起きているが、逆にヨーロッパ各国ではむしろ古典的三点セット「プライバシー、セキュリティ、信頼性」の確保が重視されており、これらヨーロッパの現状をどう評価するかが議論されるものと思われる。7は大半のヨーロッパ各国の医療制度が「国営医療」であることに配慮したものだと思われる。一般的に「国営医療」とベンチャー主体のHealth2.0の親和性は高くはないだろう。 続きを読む

Google Health:ストレージ機能強化とアドバンス・ディレクティブス

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先週、GoogleはGoogle Healthのストレージ機能強化を発表した。これによってユーザーは、PDF、イメージ、オーディオ、ビデオなど、各形式の自分の医療記録ファイルを自由にアップロードできるようになる。特に紙の医療記録がまだ多いので、これらをスキャンしPDFファイルでGoogle Healthにしまうことを、Googleではユーザーに勧めている。現状は紙記録から電子記録への移行期に当たり、このようなサービスが必要だと判断したようだ。ちなみに以前、紙の医療記録をファックスで集約するようなPHRサービスがあったが、その後あれはどうなったのだろうか?。

今回の機能強化によってユーザーに割り当てられるストレージ容量は100メガ。各ファイルサイズは4メガ以下という制限が設けられている。大きな画像診断ファイルなどは大丈夫なのか?。ところでGoogleはこのストレージ機能強化と同時に、「アドバンス・ディレクティブス」(advance directives)サービスの発表をしている。 続きを読む