PDR:患者ディスクールの分析視点

PDR

「最近ある医薬品業界のマーケティング担当者が、次のように指摘した。あらゆる患者の経験が、今やデータの川となって流れ出しているが、これを賢く蓄積すれば、患者の健康状態に関する詳細なポートレートを描き出すことができ、さらに他の患者のデータの川と合流させることにより、疾患の全体像と患者集団全体に関する知識の深い貯水池としてまとめあげることができる。」(「ビジョンから決断へ ファーマ2020」, PwCジャパン)

花も終わり、ひところに比べると、新宿御苑を訪れる人並みも落ち着いてきた。今日の昼、御苑を歩いていると何組かの幼稚園児が遠足に来ていたが、あちこちに設営され始めたテントが目をひいた。毎年恒例のことだが、首相主催の観桜会が週末に開催されるらしい。

4月も半ば過ぎとなったが、今月はずっとテキストマイニング運用準備に取り組んできた。主にデータベースや形態素解析エンジンのチューニングをやったわけだが、結果として解析プロセスに要する時間は、従来の半分以下に短縮することができた。これで、闘病ブログ4万サイト、500万ページ、30億ワードのドキュメント・データすべてを、テキストマイニング処理する準備が整った。

これからリリースするサービスは、PDR(Patient Document Research)とPDS(Patient Document Sampler)の二つだが、一応、今の時点では、患者リスニングツール「dimensions」のカスタム・サービスという位置づけを想定している。特にPDRだが、dimensionsが固有名詞と名詞を抽出・集計し、個々の患者体験に出現する薬品名や検査・治療法名などをトラッキングするツールであるのに対し、新たに形容詞・形容動詞と動詞・サ変名詞を抽出することになる。

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春宵仮想対談: sermo, Health2.0, ハッカソン

夏、秋、冬、そして春へ

客) やあ、ずいぶん久しぶりだね。
主) そういえば、前回は「真夏の架空対談」だったからな。もう、桜が満開の季節になった。
客) 前回は米国の医師コミュニティ”Sermo”売却事件の直後だったので、医師コミュニティについて徹底的に語り合ったわけだな。
主) そうそう。
客) あれから、Sermoはどうなったんだろう?
主) 夏にはダベンポートが社長を務めていたが退任し、その後、ずっと社長不在の状態が続いている。
客) 社長不在とは困ったものだな。
主) そうだ。でも、創業者のダニエル・ペールストランが辞めた時も、しばらく社長不在の時期があった。だんだんわかってきたんだが、ペールストラントは一昨年の11月にSermoを離脱している。その後、翌年の春まで、4か月ほど社長空位のまま「社長募集」というのをやっていたらしく、結局、ダベンポートに決まったということだ。
客) じゃ、今回も「社長募集」をやっているのか?
主) いや、そのうち売却先のWorldOneから人が来るのだろう。WorldOneが、Sermoをどう立て直すかが注目される。
客) その後、Sermoの業績はどうなんだ?
主) 会員数は135,000人と発表しているから、これを額面通り受け取れば、1万人増えた勘定だ。しかし、competeやQuantcastなどのデータを見ると、月間ユニーク・ビジターはほぼ1万人台。これはここ2-3年ほとんど変わっていない。実際に生きているのは、全会員のおよそ1割程度ということだ。
客) かつてAMA(米国医師会)のオフィシャルSNSのお墨付きをもらい、ファイザーの全面的サポートの表明もあり、誰もが順風満帆と確信していたことを考えると、隔世の感があるな。
主) そうだな。AMAとは決裂し、ファイザーはじめ大手製薬メーカーも、いつのまにか姿を消していた。いったい何があったんだろうと思うね。
客) それでもアメリカは、次から次に医療分野のスタートアップが登場してくるから、Sermoがどうであれ、シーン全体を見れば活況は続いているんじゃないかな。
主) そうだ。それにひきかえ日本は、医療ベンチャーシーンとりわけウェブ情報サービスがまだまだだね。いくつか面白いスタートアップも出てきてはいるが、シーン全体の盛り上がりというものがない。

日本のHealth2.0

客) 日本でも、Health2.0がその起爆剤になればと期待していたが、どうもそうならなかったような気がしていて、残念だ。そういえば、君は最近のブログ・エントリで、かなり強く東京のHealth2.0のやりかたを批判していたな。
主) 誰かが言わなければならないと思ったから言っただけだ。今、君が言ったように、日本でのHealth2.0の役割は、とにかく医療分野でスタートアップが多数出現するような状況をつくることにある。ところがその大事な役割を忘れて、「自分たちがHealth2.0なんです」と言ってしまった、自慢してしまった。これではなあ・・・。スタートアップに無関心すぎたね。
客) 自分のところの会社を売り出すためなら、自分たち一社で、広告とかイベントをやればいい。もともとパブリックな性質を持つHealth2.0というムーブメントを、プライベートに利用してもらっては困る。そして、そこから抜け落ちたのは、スタートアップ登場の起爆剤になり触媒になる、という社会的な「志」だった。 続きを読む

夏の再会

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まだまだ残暑は厳しいが、石神井公園を散歩していると秋の気配を感じるようになってきた。今年もスイカを毎日食べて「痛風知らずの夏」を過ごし、毎日美味しくビールやワインを飲めた。スイカに感謝!。

さて最近、すっかりブログを書くテンポが落ちてしまったが、また秋から徐々にテンポを上げていきたい。この秋にはブログのリニューアルをしようと考えている。前回エントリで「Health2.0の陳腐化」みたいなことを書いたが、Health2.0にフォーカスしてきたこのブログも、そろそろ視野をもっと拡大する時期に来ているだろう。医療を取り巻くイノベーションの波は、すでに「Health2.0」という古く窮屈な上着を脱ぎ捨て、先へ先へと疾走しようとしている。新しいビジョンが必要になっているのだ。

この夏、当方にとっていろいろ新しい出会いがあったが、それと同時にうれしい再会もあった。かつてTOBYOプロジェクトのパートナーとして活躍していただきながら、残念ながら当方の至らなさ故に袂を分かつ事となった株式会社メディカル・インサイトの鈴木英介さんと、およそ一年半ぶりに先月再会した。

久しぶりにお会いした鈴木さんは、以前の鈴木さんとはどこか違っているようにお見受けした。以前の鈴木さんであれば、どんな暑い夏の日でも決してスーツを離さず、おまけにネクタイまで着けていたのだが、今回お会いしてみるとノースーツ、ノータイのカジュアルな装いであったのにまず驚かされた。そして、どこか以前よりもタフで精悍な身のこなしである。「いったい、鈴木さんに何が起きたのか?」。そのわけは、この7月、鈴木さんがローンチした新しいコミュニケーション・ツール“Message Leaf”にある。 続きを読む

患者ドキュメントによる医療評価

Calendar2nd

先週は嵐。今週は花吹雪。花も嵐も踏み越えて行くが男の生きる道。いささか古いか・・。

ひたすら闘病ユニバースの可視化とデータ収集に励んできた4年間だったが、dimensions、CHART、TDRと開発は進んできた。最近、もう一度私たちが目指してきたことをあらためて確認しなおす必要があるような気がしている。今の時点で、私たちが目指してきたことを短く言えば、それは「患者ドキュメントによる医療評価」ということではないかと思う。これを実現するためには、とにかく患者ドキュメントを大量に集めなければならなかった。そしてデータ量が確保されたら、次にそれを使って「評価」というものを生成しなければならない。これは「データを評価へ変換すること」とも言える。

dimensionsはその変換のための基本ツールであったが、それはまだ「評価」自体を提示するものではなかった。ユーザーの多様な目的に即して自由にデータを抽出するツールであり、特定の「評価」を出力するためのものではなかった。開発当初は、このような多目的ツールであることがユーザーのニーズに合致するものだと想定していた。

そして先月から本格的に取り組んでいる「がん闘病CHART」では、だんだん「評価」へ踏み込んだ出力というものをイメージするようになってきている。それはユーザーの自由度にある種の制限を設けて、一定のフレームでデータを見ることによって実現されるものだ。データの解釈が全面的にユーザーに任されているような状況では、「評価」はユーザー自身の手に委ねられている。たとえばマーケティングや製品開発などプロフェッショナルな仕事をしている人達であれば、本来なら医薬品や治療法など、ある事象に対する「評価」はツールを使ってデータを検討しながら自分自身で行うべきだろう。またそのような技量と経験を持つがゆえに「プロ」であるとも言える。 続きを読む

仮想対談:「 ビッグデータ、Patient Portal」

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客) ようやく、春らしくなってきたね。

主) 今朝、石神井公園を歩いたが桜はまだだ。新宿と違って、こっちは梅はだいたい終わったね。あちこちでウグイスが鳴いていたな。

客) ところで、TOBYOの収録サイト件数も3万4千件まで来たね。当初、「闘病ユニバースは約3万サイト」と推定していたけれど、もうそれを越えてしまった。

主) 今の時点で、だいたい5万サイトまで見えている。昨年あたりから、ブログで闘病体験を書く人は増えていて、中身も充実したものが多いような気がする。最近、特に印象に残ったものでは、先日、3月11日名古屋ウイメンズ・マラソン2012を走った乳がん患者の「メモ」というブログがある。これは質・量ともにすばらしい。

客) タイトルが「メモ」と素っ気ないが、中身はすごいね。乳がん患者になった人に、まず読むようにすすめているブログだ。

主) 最近の闘病ブログは全体としてかなりクオリティが上がってきている。自然発生的にネット上に生まれた「闘病ユニバース」だが、やっぱりそれ自体の歴史というものがあり、進化してきているのかもしれないね。

客) 誰かが最初に開発した闘病ドキュメントのフォームがテンプレートとして利用され、やがて、次々に新しい工夫が加えられるような「継承と発展」みたいなことが起きているのか。 続きを読む