d2をファーマコビジランスに活かす

WEB-RADR

ヨーロッパのファーマコビジランス・プロジェクトWEB-RADR。

前回エントリが昨年11月だから、ずいぶんブログ更新が滞ってしまった。暮れ、正月はとっくに越し、すでに立春を過ぎたわけだが、2月というのに今日など異常な高温である。なんだか季節がハッキリしないのだが、とにかく当方は仕事を続けてきた。

昨年秋、患者ブログ調査プラットフォーム「d2」(ディーツー)をリリースしたが、まだ世の中に周知させる前から広く関心を頂戴し、成約もいただき、幸先良いスタートを切ることが出来た。関係者の皆さんに深く感謝している。

d2の用途と利用阻害要因

さて、いろいろな反応を頂戴する中で、最近とりわけ深く感銘を受けそして驚いたのが表題にある「ファーマコビジランス」である。d2開発の過程で、当然さまざまにユーザーの用途を想定していたのだが、このことだけは我々の盲点になっていた。否、正直に言えば、むしろd2のように患者の声を直接届けるサービスにとって、ファーマコビジランス、そして一般に有害事象(AE)報告関連にかかわる諸規制は、むしろ阻害要因になるのではないかと考えていた。

これまで製薬会社の方々からd2について、「d2で患者の声を直接聞きたいとは思うが、有害事象報告の件が・・・・」と言葉を濁されることがたびたびあった。それゆえに、有害事象関連情報を見ないですむような仕組みが必要かとも考え、実際にd2上のツールにそのような機能の実装を考えたり、あるいは他の方法で有害事象関連情報を回避することも検討した。

d2を使ったファーマコビジランス

だが、今回、ある大手製薬会社さんから、逆に「d2をファーマコビジランスに使いたい」とのご提案を頂戴し心底驚いた。これはまさにこれまでの常識を覆す「逆転の発想」であるが、失礼ながら、製薬業界からこのような画期的な発想が出てくるとはまったく予期せぬことであった。

ファーマコビジランス(pharmacovigilance)とは一般に「医薬品安全性監視」と訳されており、WHOは「医薬品の有害な作用または医薬品に関連する諸問題の検出、評価、理解及び予防に関する科学と活動」と定義している。従来、これは一般的に「医師-MR-製薬会社」ルートで情報が集められ、必要なものについては規制当局に報告することになっていた。だが、実際にこのルートで得られる情報は、現実の氷山の一角に過ぎず、しかもある種のバイアスがあることを否定できなかった。

さらに今日ではインターネットおよびソーシャルメディアの普及により、患者が薬剤についての副作用体験を直接、ブログ、SNS、掲示板などで大量に公開しはじめており、これは各国の規制当局にとっても無視できないものと認識されるに至っている。

ソーシャルメディアへのシフト

米国FDAは数年前に、Twitter上の患者ツイートを収集し、有害事象の兆候となるデータを抽出する研究を始めた。しかしFDA関係者によれば「あまりにもtwitterの情報はノイジーであった」ということらしく、どうも求めるデータをうまく抽出できなかったようである。そこでFDAは方針を変え、昨年6月に2つの施策を発表した。

その一つは、有名な患者SNS「PatientsLikeMe」との提携であり、PatientsLikeMeが保有する11万件の有害事象データベースにFDAが随時アクセスできることになった。もう一つはGoogleとの提携であり、ユーザーの検索ワードから有害事象関連ワードを抽出し、そのトレンドを時系列把握して有害事象予兆の把握をめざしている。

またヨーロッパでは英国MHRAなどが参加する「WEB-RADR」プロジェクトが、やはりソーシャルメディアを利用したファーマコビジランスの研究を開始しており、患者から有害事象情報を直接報告できるスマホアプリなどをリリースしている。

以上のように、この間、世界ではインターネットを利用したファーマコビジランスの動きが徐々に始まっており、この流れは私達のd2プロジェクトにとって想定外ではあるが、まさに願ってもない好機となる。

ソーシャル・ファーマコビジランスへ向けた挑戦

後日、学会発表等を通じ正式に発表されることになろうが、今回、「d2を利用したファーマコビジランス」という大きな可能性を指摘していただいた大手製薬会社さんには、この場を借りて心から感謝を表したい。

一応、今の時点では、患者ブログに公開された患者体験に基づく、世界で初めての「ソーシャル・ファーマコビジランス」の可能性に着目した、我々と製薬会社さんの野心的かつ挑戦的コラボレーションが開始されたことをご報告しておきたい。

医療マーケティング以外のd2の今後の新たな役割として、「患者さんが公開した声をダイレクトに医薬品安全性に活かす」という重要な役割が加わり、それによってd2プロジェクトが医学に貢献していく道が開けたことを素直に喜びたい。

三宅 啓 INITIATIVE INC.


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