闘病ドキュメント解析へのチャレンジは続く

動詞系語でハーセプチン関連語をマッピング

いよいよ炎暑が来たかと思うと、涼しい日が続いたり、はたまた「戻り梅雨」だそうで、東北など滂沱たる強雨に襲われたり。今年の夏は、はっきりしないが、当方、毎日スイカを食べて元気に過ごしている。それでも最近、87歳になる母が、日を追って精神的身体的に弱ってきているのが気になる。老化は如何ともしがたいのだが、介護のことをこれまで以上に思案し始めている。当方のワークスタイルを含めて、これからどう働き、どう過ごしていくかを考える時期に来ているようだ。果たして「親を介護しながらベンチャー」みたいなことが、うまくできるものだろうか。

結局、闘病であれ介護であれ、家族が本人を支えていくことが基本になるのだろうが、その実態はどうなのか。患者視点による医療アウトカムの公開をめざす「Perspective」では、赤裸々にこれらの実態を記録した闘病ドキュメントの分析によって、闘病や介護における関係者の役割を可視化しようと考えている。

今回、dimensionsのデータベースから、乳がんの分子標的剤「ハーセプチン」が記載されたドキュメントデータだけを抜き出し、その服用実態分析をおこなってみた。これは患者1045人による、8968ページ、語数998万ワードからなるデータである。これをテキストマイニングして、「プロダクト・マップ、コミュニケーション・マップ、ディシジョン・マップ、サティスファクション・マップ」などアウトカム・マップを出力する予定だ。なかでもコミュニケーション・マップとディシジョン・マップは、患者が医療者や家族など関係者とどのようなコミュニケーションをしているか、あるいはどのような医療意思決定をしているかを可視化するものだけに、重要なポイントだと考えている。

ハーセプチン利用者の闘病ドキュメントに出現する登場人物

まず一番基礎的なところだが、闘病記録にどのような関係者がどんな頻度で登場するかを調べて見た。闘病ドキュメントは基本的に、患者本人が自分の身体や心の状態を記録するという、ある意味で「私ワールド」にフォーカスした極私的形式を持っているから、当然「私、わたし、自分、アタシ」など「私」を表す語が頻出している。なんと、関係者を表す語全体のうち6割強に達していた。続いて「医師、家族、夫、友人」となるのだが、注目すべきは、患者本人のパートナーであるはずの「夫」が、関係者全体のたった5%にとどまっている点である。この「夫」の存在感の希薄さは、いったい何を語っているのだろう。

「夫」を表す言葉をみると、「夫、主人、旦那、パパ、おとうさん」などであるが、その中に「オット」とカタカナ書きされているケースがある。「オットセイ」の書き間違いではない、「オット」なのである。思い返せば、近年、女性の闘病ドキュメントで夫のことを「オット」と表記する人が増えてきている。発音してみれば「夫」も「オット」も、両方「オット」であるが、これをわざわざ「オット」と書くと、そこには何やら或る種のニュアンスが立ち昇ってくるではないか。端的に言えば、近年の日本の「夫」族は、「夫、主人、旦那」など表意文字で漢字表記される存在から、表音文字でカタカナ表記される「意味を奪われた」存在へと変質してしまったのである。

以上のような背景のゆえかどうか定かではないが、闘病する女性と夫とのコミュンケーションが希薄であることは、データからみて明らかである。夫よりも、むしろ父母兄弟あるいは子供など家族とのコミュニケーションのほうが上回っている気配である。

これらは、これから「Perspective」で明らかにしていく患者視点の医療アウトカムの、ほんの一端にすぎない。患者がウェブ上に公開した膨大な体験ドキュメントは、日本の闘病の諸相をありのままに記録している。これは日本の医療アウトカムの貴重な報告なのだ。アンケート調査のような構造化されたデータではなく、非構造化データゆえのデータ分析の難しさを有しているが、医療に関する新たなる知見を社会にもたらすものである。なんとか有意な形で社会に提供できるように努力していくつもりだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


闘病ドキュメント解析へのチャレンジは続く” への1件のコメント

  1. オット 軽い感じですね。実態かも。怖いオットはきっと減って、優しい人が多いのかと思います。ちょっとうらやましい気もします。

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