がん情報報告制度、オープンガバメント、パワーシフト

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この連休もようやく昨日から5月らしい晴天になった。ところで当方、あいにく体調が悪く、自宅蟄居状態の日々を過ごしていた。どこへ出歩くということもなかったが、雨模様の合間に、妻と新宿へ映画「裏切りのサーカス」を見に行った。この映画は良かった。淡々とシーンを重ね上げる寡黙な作りの映像に好感を持った。ストーリーよりも絵(映像)が良いので、ただじっと見とれていた。あとは自宅で音楽を聞き、本を読み、部屋の片づけをやり、石神井公園を散歩し、あれこれ事業の今後を考えるうちに連休は終わった。

そのあいだも社会は動いている。厚労省は癌患者情報の医療機関による報告義務づけ構想を発表した(日経5月2日「がん情報 全国一元化 病院に登録義務、厚労省検討 」)。

国が集めたがん情報は当面、国立がん研究センターが一元管理する。患者数や生存率の統計はホームページなどを通じて一般市民でも入手できるようになる。将来的にはがんになった際、自分に適した治療法や医療機関を調べる情報源とすることを厚労省は検討している。患者や病院は国や都道府県を通じて情報を提供してもらう。例えば、データベースを通じて症状ごとに治療経験が豊富な病院がいち早く分かれば、患者の早期治療につながる効果が期待できる。

とのことであるが、これまで正確な癌患者数など基礎データ把握さえおこなわれていなかったとは・・・驚かざるを得ない。遅まきながらもデータを収集し公開することに異存はないが、データ公開の方法は「国立がん研究センター」など政府系サイトを通じてではなく、ぜひ海外の「オープンガバメント」のやりかたを研究してもらいたい。すなわち政府系サイトを作るのではなく、データを一般に公開する方法を採用すべきだ。

「政府系サイト」を作ると、高いコストの割には使いにくく、閉鎖的で、決してユーザーフレンドリーとは言えないサイトになるに決まっている。だからデータを民間に公開し、そのデータを利用して企業やNPOが自由にサービスを作る方が良いものができるし、行政はコストゼロで済む。結果として行政が公開するデータによって、新たな医療サービスのエコシステムが誕生するかもしれない。政府や行政は税金でデータを収集しているのだから、当然そのデータは著作権フリーのパブリックデータであり、本来、誰もが自由に使って良いものだ。

医療ビッグデータを考える場合、特に日本では行政が持っている医療データの公開がキイとなるだろう。すでに海外、特に米国と英国では政府が積極的にデータを公開し、民間利用を推進しているが、今後、行政はデータを秘匿するのではなく、広く公開し、データを利用した特定課題のソリューションを民間に任せるべきである。

またこの「がん情報、全国一元化」構想では「患者数や生存率の統計はホームページなどを通じて一般市民でも入手できるようになる。」とのことだが、考えてみるとおかしなことを言っているのではないか。「一般市民でも入手できるようになる」という文言だが、そもそもそのデータは誰のものなのか。患者および「一般市民」のデータではないのか。それを何か「お前達にも見せてやろう」的な発想が見え隠れして、時代錯誤もはなはだしい。

かつてデータはその筋の「専門家」によって特権的に管理され、一般の目に触れることはなかった。ところがウェブは、これらのデータを消費者側で自発的にシェアしパブリック化するツールとして機能し始めた。今や消費者は自分たちのブランド選好、購買行動、商品選択、購買価格、購買店舗、商品評価等を大量に公開しパブリック化しているが、これらは以前はたとえばPOSなど非公開DBで蓄積管理されていたデータである。あるいは「消費者購買調査」などレガシー調査によって取得・管理されていたデータである。つまり消費者はウェブによって、従来のデータシステムやレガシー調査を実質的に無意味なものに変えつつあると言えるだろう。

では、このことによって何が起きているのか。それは消費者へのパワーシフトだ。消費者は自分達の生活データを公開しシェアすればするほど、政府や企業に対して自分達のパワーを強化して行く。たとえば、価格、機能、サービスの質。こういったことが透明化されていけば行くほど、すべての市場で、消費者へのパワーシフトは雪崩を打って進行する。医療もその例外ではないのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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