仮想対談: 「2.0」への苦言

Sake_20

客) やっと暖かくなってきたが。

主) そうなんだ、やっと新宿御苑プロムナードの梅の花も咲き始めた。ところで、このエントリだが、なにか今までとスタイルがちがうな。「仮想対談」というのかな、こんな形式もはじめての試みだが。

客) 前から一度やってみたかったんだが、今日、吉本隆明死去のニュースを聞いて、早速やってみた次第だ。

主) 吉本さんの「情況への発言」だな。あれは面白かったな。毎回、進歩派知識人を「このバカ、死ね!」とメッタ斬りするところが痛快だった。仮想対談という形式でしか実現できない言説空間というものが、たしかにあるんだなと思ったね。

客) そう、あの「情況への発言」にあやかろうというわけだ。ところでまず、君はここのところ、医師コミュニティについてかなり批判的な発言をしているが、その真意は一体どこにあるのか。そのあたりから話してみよう。

主) 別にとりたてて「真意」というものもない。ただ、Sermoの現状などを見ていると「本当は、ちっとも成功などしていないのではないか?」という疑念が強まってきたわけだ。その一方で、QuantiaMDが会員数15万人に達し、Sermoを抜いて全米ナンバーワン医師コミュニティになったというニュースもあり、じゃ、SermoとQuantiaMDを比較すれば、医師コミュニティが本質的に抱える問題点というものが見えてくるだろうと考えたわけだ。

客) でも、それは君のTOBYOプロジェクトとは何の関係もないだろう。

主) いや、「Health2.0のビジネスモデル」というものを考える場合、医師コミュニティの成立与件の考察も役に立つんだ。以前、「患者コミュニティの考察」というエントリを出したが、これと今回の「医師コミュニティの考察」を合わせることで、Health2.0ビジネスモデル、特にコミュニティに共通する問題点がいくつか明らかになったと思うし、それはこちらのプロジェクトにもすごく役立った。

客) では、その「医療系コミュニティの問題」というのを聞かせろ。

主) うむ、そんな複雑なことでもないんだ。患者であれ医師であれ、医療系コミュニティというものは量的に大きな固まりになれないという、すごく単純な問題を抱えている。結局、患者であれば病名、医師であれば専門によって細分化されざるをえない。そして細分化されたグループ間では固有の専門用語が違う。つまりボキャブラリーが違うわけだから、簡単にコミュニケーションがおきるわけがない。それに、特に医師は全数でも30万人という少数グループだから、結果として、コミュニティ全体で生産される情報量ははじめから極めて限られている。

客) コミュニティの自然発生性と会員数サイズをデータ生成エンジンにはできないということか。だが、そうなるとコミュニティだけでなく、いわゆる「2.0」系のサービスは医療分野では成立しないということになるぞ。

主) ま、そう短絡するのも早いが、そこまで徹底して考えてみる必要もはあるだろう。ビジネスモデルを、医療系コミュニティの特殊性の検討からもう一度練り直さないと。どうもこれまで「2.0」を通俗的なイメージだけで軽々に語って、医療分野との実際の親和性を厳密に検証してこなかった風潮がある。だから「価格ドットコム」や「食べログ」とか「集合知」とかが、あるいは「プル型サービス、プッシュ型サービスの対比論」などが、何の吟味もされずに安直に「分かりやすい話」として持ち出されてきたわけだ。

客) うん、君はそれらにひどく嫌悪感を持っていたね。「通俗的なイメージ」ということでは、今では「ソーシャル・メディア」を語れば済むみたいな風潮があるな。とりあえずツイッターとフェースブックを語っていれば「ソーシャル・メディア・マーケティング」論だみたいなお手軽な話にも、そろそろ飽き飽きしてきたね。

主) 「Health2.0」というムーブメントが生まれてから、もう6年たった。そろそろいろいろなことを中間総括する時期かもしれない。そういう意味では、今日、ジェイ・パーキンソン医師のブログエントリを読んで、少しショックだったけれど、「なるほどなぁ」と共感するところも大きかったよ。

客) そのエントリだけど、「Health2.0」という言葉がどこにも出てこないね。最近気になっていたが、海外のブログやメディアでは、Health2.0ではなくDigital Healthという表現のほうがよく目にするようになった。

主) 「Health2.0」というと、なんだか単にマシュー・ホルト&インドゥー・スバイヤのイベント・ネームみたいな感じがある。つまり、残念だけどHealth2.0は次世代ウェブ医療サービスの代名詞になれなかったということかもしれないね。ティム・オライリーのWeb2.0のような社会的広がりを持てずに、単にイベント興行のブランドみたいなことになってしまった。今みたいに排他的ではなく、もっとオープンに「Health2.0」を使えるようにしたほうが良かったかもね。たしかに「Health2.0」が露出する機会は減っている。

客) 結局、明確なビジョンが打ち出せてないんじゃないか。オライリー達はGov.2.0まで行ったわけだが、Health2.0のビジョンははっきりしない。すぐに浮かんでこない。マシュー・ホルトの「アンプラットフォーム」も、結局、なんだったのかわからないままだ。やはり論客スコット・シュリーブ、それにジェイ・パーキンソンなどが抜けたのが痛い。

主) それに最近、Rock HealthとかStartUpHealthみたいな新興インキュベータの活躍が目立ち、相対的にHealth2.0の影が、医療ITシーン全体の中で薄くなってきているね。もう、次世代の医療ITムーブメントの代表選手ではなく、One of themということなのか。

客) 日本はどうなんだ。君は昨秋の「Tokyo Chapter3」にブログで苦言を呈していたな。

主) あれではまるで製薬業界団体の会合みたいなものだ。一体どこが「2.0」なのか。なぜ国内スタートアップ企業や新規サービスが紹介されないのか。理解に苦しむ。「患者のエンパワーメント」というコンセプトもどこにも見当たらなかった。

客) それにくらべると、先月、福島で開催された「Fukushima Chapter2」だけど、医療Hackathon などベンチャーらしい意欲的な技術志向のイベントも開催され、東京なんかよりもずっと充実していたようだね。なによりも、その場から、具体的な技術成果が生みだされたということが素晴らしい。

主) 参加できなかったのが非常に残念だが、素晴らしいイベントを開催された方々に拍手と敬意を送りたい。正直言って「日本のHealth2.0は”Tokyo Capter 3″で死んだ」と思っていたが、「まだ生きているんだ」と、これで勇気づけられた思いだ。今後は東京のHealth2.0も、全面的に福島スタッフに企画・運営を任せてはどうか。そのほうが良いものができそうだ。

客) そうだな。ま。今夜は、吉本翁の冥福を祈って飲みたい気分。

主) そうそう。それで、上の写真「Sake2.0」を掲出することにしたんだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


仮想対談: 「2.0」への苦言” への1件のコメント

  1. 医療機関が患者に提供しているのは、主として『医術(medical technique)』で、患者が欲しているのは、それも含めたもっと大きなくくりの『医療』なのでは?

    たとえがヘンかもしれませんが、Bill GatesはPersonal Computingというテクノロジーを提供しようとしたけれど、Steve Jobsは、User Experienceを提供しようとしていたことに似ているような気がします。

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