医療選択、意思決定、行動経済学

daniel_cahneman

めっきり寒くなったと思ったら、もう2011年もあと数日を残すのみ。そろそろ来年のことを、あれこれ考えはじめたりしている。前エントリでも書いたが、とにかく今年は、dimensions開発とプロモーションに明け暮れた一年だった。地震もあったが、何か例年にもまして短い一年だったような気がする。

dimensionsだが、すでにシステム運用を開始しており、現在、製薬会社や調査会社の方々に実際にお使いいただいている。当面、ディスティラーにおける対象疾患数とキイワード(固有名詞)件数の増加、そしてX-サーチの検索結果メタデータとフィルタリング項目の追加作業など改善に取組んでいるが、当初めざしていた基本機能は予定通りワークしている。今後は、クロールと集計の定常運用モードに入り、データ件数の拡大と更新の迅速化をめざしていく。

さらに来年へ向け、二つの新規サービスを準備している。あれこれ検討してネーミングも決まった。その一つは、闘病体験を個人ごとにワークシート一枚で時系列集約する「アルマナク」(Almanac)、そして患者体験による医薬品評価サービスの「ボイシズ」(Voices)である。

このようにシステム開発は進んでいるが、同時に、それらを支える理論的フレームもこの一年間に少しづつ固めてきた。特に春先から、ソーシャル・リスニングなど新しいリサーチの考え方をどんどん導入してきたが、それらはやがて徐々に行動経済学へと焦点を結ぶことになった。dimensionsのプレゼンテーションもその主要論点がどんどん変化してきたのだが、この秋頃からだろうか、プレゼンでダニエル・カーネマン(上写真)を引用することが増えてきている。

今後、私たちは患者体験の分析フレームとして、行動経済学の知見を活用していくことになる。医療に行動経済学を応用し、特に「患者の医療選択と意思決定」の分析に取り組んでいきたい。国内最大の患者体験データベースであるdimensionsを使い、行動経済学の新しい知見に従って、医薬品評価、病院選択、治療選択など、「患者の医療選択と意思決定」の現状とその課題を洗い出すことが可能だと考えている。私たちは、できうればそのような研究プロジェクト的な方向にチャレンジしたい。

従来のレガシー・マーケティングの消費者行動モデルは、すでに現実の消費者のブランドと商品の選択・意思決定プロセスを十分に説明できなくなっている。それに対し、ダニエル・カーネマンらが提唱する行動経済学の限定合理性モデルやプロスペクト理論などの方が、消費者行動を理解するうえで、より現実的で優れた理論的フレームを提供しているように思われる。レガシー調査に疑いの目が向けられ批判されている背景には、そのように考える人が増えてきているという事情がある。同じように、医療の選択と意思決定に関わる患者行動論も、行動経済学の新しい知見によって再構築すべきだと考える。この一年、紆余曲折を経て、そんなビジョンに到達した。

このような考えに至ったのも、実は今年春からマーケティング・リサーチの分野で世界的に起きているイノベーションの諸潮流を学ぶうちに、複数の関係者が異口同音に行動経済学に言及していることに気づいたからである。特に引用されることが多いのが、ダニエル・カーネマンのノーベル賞受賞記念講演での「大腸内視鏡検査における患者の苦痛評価実験」に関するものであった。

以上のような経緯もあり、私たちの来年のテーマは、「患者体験に基づき、行動経済学の視点で医療を見つめ直す」ことになる。dimensionsはそのための強力なツールとなるだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>