講演会と新たな気づき

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昨日「医療の未来を考える会」のお招きにあずかり、「闘病体験の共有と傾聴」というテーマでおはなしをした。日曜午後という一週間で一番のんびりした時間帯にもかかわらず、たくさんの方々にお集まりいただいた。感謝。

会のメインテーマに「Health2.0で医療が変わる」とあったので、冒頭、駆け足でHealth2.0の概要を説明した。できるだけ手短に要約しようと今回あらためて考察してみたが、結局、Health2.0の原点は「伽藍とバザール」(1997)と「Cluetrain Manifesto」(1999)に行き着いてしまうと確認した次第。

エリック・レイモンドのオープンソースをめぐる古典的名作である「伽藍とバザール」を、スコット・シュリーブは第一回Health2.0カンファランス(2007)掉尾を飾るスピーチで引用している。伽藍的な知と技術の体系としての医療に対し、スコット・シュリーブは来るべきバザール型医療をビジョンとして提起したわけだ。ここから”User Generated Healthcare”や”Participatory Medicine”などのスローガンを導き出すのは容易だが、この「伽藍とバザール」という対比ほど明確にHealth2.0のビジョンを語る言葉はないと思う。

昨日もお話したが、「知の秩序・枠組みの変換期」という時代認識なしに、単にソーシャルメディア周辺のトピックスでお茶をにごすようなHealth2.0論では、本当に「医療を変える」ことなどできるわけもない。では医療は伽藍からバザールへ実際に移行するのかといえば、そんなに簡単には行かないだろう。おそらく巨大な変革モメンタムを必要とするに違いない。だが、医療を取り巻く状況は確実に動き始めている。

そしてデビッド・ワインバーガーらの「Cluetrain Manifesto:The End of Business as Usual」だ。この本はよく「ウェブ・マーケティングのバイブル」と言われるが、1999年の時点で、ウェブが開く新しい世界観を力強く宣言している。このマニフェストに影響された人は非常に多いが、Health2.0ムーブメントに先立つ”Open Healthcare Manifesto”(2006)を主催したドミトリー・クルーグリャクもその一人であり、「Cluetrain」へのオマージュを込め、わざわざこのマニフェストに「Health Train」とタイトルを付けたのだった。また、タラ・ハントは「Cluetrain」から特に”The Market is Conversation”というフレーズを抜き出し、この言葉を軸に新しい時代のマーケティングを主唱したが、後日、この延長線上にソーシャル・リスニングという考え方が登場することになる。その意味では、私たちのdimensionsもまた、「Cluetrain」が引いた軌道線上に存在すると言えるだろう。

また昨日、例によって「闘病ユニバースの成立」を取り上げたのだが、この闘病ユニバース自体が、よく考えてみればバザールそのものであることに気がついた。スコット・シュリーブがエリック・レイモンドの著作から呼び出し、新たに医療に適用しようとしたバザールの概念だが、日本では現実に闘病ユニバースとして存在しているのである。各人が思い思いに自分の知識・情報・経験を持ち寄り、好き勝手に店(サイト)を開き、会話し、交換し、教えあい、学びあうバザール。そして”The Market(Bazaar) is Conversation”であるから、そこでどんな会話が交わされ、また独白がなされているか、まずは傾聴することが必要なのだ。

TOBYOは闘病ユニバースのインフラ・ツールになることをめざし、dimensionsはバザールのリスニング・ツールをめざしている。そんな新しい気づきを、今回の講演会の準備段階で得ることができた。関係各位に感謝。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


講演会と新たな気づき” への2件のコメント

  1. 講演ありがとうございました。
    伽藍とバザールという比喩は正しいと思うのですが、バザールをしきるギャングや部族長が秩序を作っているのでバザールで商品の売買いが出来るのです。
    秩序がなくても情報のやり取りは出来ますが、売買いには価格設定や保険、治安の維持が必要で、現在のHealth 2.0には部族長がいない過渡期だと考えています。
    新しい企業が生まれては潰れ、フェーズ転換期に巨大企業が生まれるのはGoogleやAmazonを見ていると判ります。

  2. コメントありがとうございました。

    「ギャング、部族長」ですか。おもしろいですね。たしかに基本的なルールとそれを司る管理団体は、バザールにも必要でしょうね。

    それらの管理運営団体も、やはりオープンで出入り自由なオープンソースソフト管理団体みたいなものかなと思ったりします。医療はオープンソースであるべきだと思うからです。

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