TOBYOプロジェクトのビジョン再考

 Shijuku_Sky110419

前回エントリで日本の「失われた20年」について触れた。たまたま読んだ「郵便的不安たちβ」(東浩紀、河出文庫)の冒頭「状況論」に80年代-90年代を総括する優れた評論があり、なるほど「失われた20年」は「バブルの80年代」の検討抜きには理解しがたいのかも知れないと気づいた。思い返せば、80年代という時代はポストモダニストと企業戦士が並び立つような奇妙な時代であった。「ニューアカ」と呼ばれた現代思想ブームと「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が矛盾せずに並立するような時代であった。この中で無邪気に「世界の先端を行くポストモダン社会=日本」という論陣が張られたが、今にして思えば、これらは古い「日本システム」を無批判に肯定する方向をもっていたのではないか。ポストモダニストも企業戦士もいつの間にか姿を消したが、無批判に「日本」を称揚する変奏曲は、さまざまに趣向を変えながらその後も反復されている。

ところで「郵便的不安たちβ」という評論集だが、この表題の「郵便的」という言葉に何か強く惹かれるものがある。たとえばネット上の闘病ドキュメントであるが、これも遠くの見知らぬ人にあてた郵便のようなものかも知れない。それが誰かのもとに届けられ、そして読まれるかどうかはわからないが、確かに自分の体験をネットに公開するという行為は、どこか郵便的な行為と似ている。そう考えると、TOBYOの役割はさしずめ郵便局ということになるだろう。ネット上に投函された郵便を、それを必要とする誰かのもとに確実に届けるために、効率よく仕分け整理分類することがTOBYOの役割と言えるだろう。

そんなことを考えながら、最近、TOBYOプロジェクトのビジョンをあれこれ思い描いている。TOBYOのサイト収録数は現在2万7千件。これは夏か秋には3万件に到達するだろう。そして来年に4万件、再来年に5万件を達成したい。これは十分に可能だと思っている。これに並行して、7月から本稼働するdimensionsの機能を強化していく。ファクト・ファインディング・ツールというのがdimensionsの一番シンプルな機能定義だと考えているが、ファクト(事実)は患者が体験した客観的事実と主観的事実の両方からなる。現状ではまだ客観的事実を固有名詞をキイにして抽出する段階なのだが、次に疼痛など主観的事実の抽出に取り組みたい。

そしてさらにTOBYOプロジェクトは、TOBYOとdimensionsの他に第三のサービスを作り出すことになるだろう。それは、体験サイトをネット上に公開している闘病者だけを対象とする調査パネル(TOBYOパネル)である。公開された闘病サイトが調査回答の信頼性を担保するような、あるいは闘病ドキュメントに細かく対応した調査票設計など、これまでのワンウエイの患者情報収集とは根本的にことなる調査手法が開発できると考えている。

「郵便局」としてのTOBYO。ファクト・ファインディング・ツールとしてのdimensions。そして体験ドキュメントをベースとする対話型調査パネル「TOBYOパネル(仮称)」が追加される。TOBYOプロジェクトは現在このようなビジョンのもとに進められている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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