集合知への接続: Health2.0サービス設計

NationalMuseum2

街に春一番が吹き、今日は一挙に春めいた陽射しがいっぱい。新宿御苑の梅も満開。昨日土曜日は終日音楽を聞いて過ごした。正月からカートリッジとヘッドフォンを新調し、夜ごと自宅で音楽を聞くのが楽しい日課になっているが、やはりスピーカーから直に出る音を聞くのは格別だ。

さて、先日「医師による医療機器評価サイト」というエントリをポストしたが、アクセス数が多く、たくさんの方々が注目して読んでくださったようだ。あのエントリでは舌足らずであったが、実は「ユーザー集合知との接続」という問題を今更ながら考えることが最近多い。「どんな集合知と、どのチャネルを通して、どう接続するか」というシンプルな問題の立て方が、Health2.0サービス設計の基本なのかも知れないと思うようになってきたからだ。とにかく集合知という一番基本的なファクターをどのように活用するか。ここがHealth2.0の肝なのだという思いが、ますます強くなってきている。

そのことと同時にあらためて気づくのは、10年前に流行した「ワン・トゥ・ワン」という言葉がさっぱり使われなくなってきていることだ。ではなぜ「ワン・トゥ・ワン、一対一」ということが色あせてしまったのかといえば、それはたとえば「企業 対 個人」のような、単一のリニアな関係性だけで成立するサービスが旧来マスメディアと同じような情報の画一化を生み、多様で多面的な情報を提供するためには、両者間に集合知が何らかのかたちで介在することが必須になってきているからではないかと思う。

先日エントリの「Which Medical Device」の例でもわかるように、単に企業から商品情報が医師ユーザー個人に「ワン・トゥ・ワン」の関係を通じて届けられるだけでは、最早サービスとしての価値も魅力も低いということだ。二者間で完結してしまうような「ワン・トゥ・ワン」ではなくて、そこに集合知という第三の存在が何らかの形で関与することが、今日、絶対的に必要なのだ。もちろん医療機器の情報提供というサービスに、どのような形で集合知を繋ぐかについては様々な方法があるだろうが、その繋ぎ方の優劣がサービスの価値を決定するような、そんな時代になってきている。

ではあらためて「集合知」とは何かと問えば、そのことの中身もずいぶん変わってきているのではないかと思う。かつて「集合知」といえば「コミュニティ、コミュニケーション」などの言葉が自動的に連想されたが、今やこれらの言葉だけで集合知を語ることはできなくなっている。一方では、コミュニティとそこで行われるコミュニケーションとは無縁の集合知というものも存在する。もはや集合知は「コミュニティ×コミュニケーション」の結果ではなくなっている。たとえば最近話題になる機会が多い「一般意志」だが、これもあるコミュニティにおけるコミュニケーションの結果として表出されるだけでなく、むしろ十分に情報を与えられた個人において、他とのコミュニケーションなしで、徹底的な熟慮を経て立ち現れるもの、という説明もされている。これまでよりも広いとらえ方が、集合知においても必要になっているわけだ。

それはまた「集合知=コミュニティ」という呪縛から逃れられる可能性も示唆している。「2.0とはコミュニティと双方向コミュニケーションなり」など無内容な俗説はさておき、程度こそ違えど何らかの形で、私達は「集合知への接続」ということの前提にコミュニティを置き、それをどう作るかで思い悩むことが多かったのである。しかし、もっと柔軟に考えても良いのではないか。はっきりいって、集合知のためにコミュニティを自前で持ち、ユーザーを囲い込む必要はなくなっている。ソーシャルグラフということでは、FacebookやTwitterのものを活用した方が早いだろう。また相互コミュニケーションをメンバーに課す必要もない。とにかく、相互に緊密なコミュニケーションが行われているようなタイトなコミュニティほど、窮屈で息苦しく閉鎖的な「たこつぼ」はないだろう。ここから多様で豊かな集合知が生成されるイメージを持つことはむつかしい。固定的で組織的な外見を持つようなコミュニティではなく、逆に不安定かつ流動的で、「一期一会」的な泡沫(うたかた)コミュニティのほうが、今日の集合知を考えるときに有効なイメージだと思う。

いずれにせよ、何らかの形で集合知と接続することがHealth2.0サービス設計に必須であることはまちがいない。そして特に医療分野では、クラウドソーシングがもっと検討されても良いはずだ。コミュニティ神話から解放されたら、集合知とクラウドソーシングへと至る前方視界は、もっと良好になるだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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