リサーチ・イノベーションとUGR: User Generated Research

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思い返してみると、web2.0において、やはりもっとも重要だったのはUGC(User Generated Content)という考え方だったのではないか。それ以前、各商用サイトは自前のコンテンツ制作に人もカネも時間も投入し、これが実はサイト運営における最大のコスト・ドライバーであった。「プロフェッショナルな完成度の高いコンテンツでなければ集客できない」とみんな思い込んでいたからだが、UGCという考え方の登場は、そんな迷信を根底からひっくり返したのだった。(もっとも、いまだに自前のコンテンツ制作に注力するところは後を絶たないが。)

UGCというコンテンツの制作と価値をめぐる考え方の転換によって、Flickr、YouTube、ニコ動などweb2.0を牽引するサービスが登場し、もはや「コンテンツはユーザーが作るもの」という考え方が当たり前になった。このことは調査においても言えるのではないか。従来は、プロのリサーチャーが調査設計をおこない、被験者に質問して回答を引き出してきた。基本的にこれは、プロの制作プロダクションがコンテンツを制作することと同じだ。だが2.0以降、「コンテンツはユーザーが作る」ようになったのだ。「ユーザーが作る調査」というものがあっても良いだろう。そこでUGR(User Generated Research)である。

おそらくリサーチ・イノベーションのベースに、このUGRというコンセプトを置くことになると思う。従来のレガシー調査の一般的実施手順というものをあらためて検分してみると、結局、「一定の基準のもとにデータを発生させ、回収し、分析する手順」ということになる。ところがUGRにおいては、データそのものがユーザーによって先行して生成されており、従来の調査手順の大半は省略されることになる。データは設問やインタビューを被験者に投げて、新たに被験者に生成させるものではなく、既に「被験者」の自発的意志によって生成されウェブ上に存在しているのだ。

だがこんなふうに考えてくると、より正確にUGRを言うなら「UGD:User Generated Data」という表現がぴったりくるし、さらにこのUGDとは、よく考えてみればUGCから派生してくるものに他ならないと気づく。

UGC → UGD → UGR

つまり、以上のように「コンテンツ→データ→リサーチ」という連鎖が見えてくる。私たちはweb2.0の渦中では「UGC」までしか見えていなかったのだが、実はそこから先に、まったく新しい可能性が隠されていたわけだ。そのように考えて振り返ると、TOBYOプロジェクトはネット上の闘病ドキュメントを「闘病記=作品=コンテンツ」として見ることを拒んできた。そして、むしろそれらを「データ」として見ようとしてきたのだが、それは今にして思えば、無意識のうちに「UGR」へと続く道を選択したということなのだろう。

だがUGRは何もデータだけのことではない。UGCという転換においてユーザーがコンテンツ制作の主役になったのと同じく、UGRにおいてもユーザーが調査の主役になるべきだと思う。昨日のエントリで「リサーチ・イノベーションが提供する最終イメージ」について少し触れたが、それはあくまでプロフェッショナル・ユーザーを想定しての話しだった。だが本当は「消費者ユーザーが主役の調査」というのが最終到達点だ。たとえば医療において、プロユーザーのみならず、闘病者(患者、家族、知人)が調査主体になるようなイメージを描くことが重要だと考えている。つまりリサーチ・イノベーションは、最終的に闘病者が医療選択のためのリサーチをおこなう場面を想定し、そこにおいて寄与するようなイノベーションでなくてはならないのだ。今後、そのイメージを少しづつ具体的に考察していきたいと思う。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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