ビジョンと教訓

11月に入った。夏場から開発してきたDFCをいよいよ仕上げる段階。開発の山はおおよそ越えられたものの、全体として工程は遅れ気味。。来年早々の稼働へ向け準備を進めていく。

昨日エントリの「メディラシージャーナル」だが、本日、全サイトを閉鎖したとのこと。思い切った決断に敬意を表したい。主催者ブログに「お詫び」エントリー がポストされた。「科学的根拠のない医療情報発信」、「科学的根拠のない広告が表示」との理由だが、それよりもっと基本的な「責任所在の明確化:主催者名、住所」、「広告とコンテンツの明示的区分」、「掲載情報の引用出典の明示」などが問題だったと思う。

案外、この件で改めて浮き彫りになった問題は、医療関連のコンテンツ連動広告や検索連動広告などのありかたかもしれない。従来野放しであったこれらの広告に対し、最近、一部のNPOが違法事例報告などを開始している。たしかにメディラシージャーナルのアドセンス掲出方法はやり過ぎの感が強く、「荒稼ぎ」批判も上がったが、結局一番儲けているのはGoogleなのである。いずれ、他社も含め違法医療関連広告の配信責任を問う声が起こってくるだろう。

もう一つ重要なことは、このメディラシー事件の一連の推移の中で「医療者以外は医療情報をあつかうな」という声が起きた点である。これは極端すぎるのではないか。もしも、こんなふうにウェブ上の医療情報配信が規制されるなら、闘病者が闘病体験を公開することもできなくなってしまうだろう。これを敷衍すれば「素人は医療に口出しするな」というところに行き着くはずだ。これはまさに患者参加型医療とは正反対のパターナリズム(父権主義)回帰である。メディラシー事件は、大衆の中に存在するパターナリズム回帰心情を顕に呼び出してしまった。医療を取り巻く私たちの現実は、このように可逆的で流動的な危うさを内包している。

米国の先端的な患者ムーブメントを担う「e-Patient」グループなどは、「患者は医療という乗り物の乗客ではない。ドライバーなのだ。」とまで主張している。このような主張がこれから主流になっていくのか、それとも一方にまだ根強く存在する医療パターナリズムへと回帰するような揺り戻しがあるのか。その際、ウェブはどのような役割を果すのか。ウエブ上の医療情報をどう扱うかをめぐる問題は、今後の医療が「e-Patient」グループのビジョンの方へ進むのか、それとも伝統的パターナリズムへ回帰するのか、を見通す上での分水嶺であるような気がする。

このように、メディラシー事件によっていくつかの「宿題」が私たちに残されたのである。ともあれ主催者の勇気ある撤退に拍手。そして今後の健闘を祈りたい。

※関連する昨日エントリやツイートは、既に用済みなので削除します。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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