FLRとTOBYO、そして社会的情報共有&フローシステム

FLR

先週のHealth2.0 SF 2010開催にタイミングを合わせてだろうが、イスラエルから注目のFirst Life Research(以後、FLRと略す)のサイトが正式にオープンした。これでこのサービスが目指していることが、かなりはっきりと把握できるようになった。

マーケティング・リサーチをはじめ各分野の調査研究活動は、この10年ばかりの間に大きく変貌をとげている。それを要約すると、仮説検証型からデータ駆動型への変化であると言える。各種デジタルセンサーやインターネットの登場によって、収集されフローするデータ量が爆発的に増加し、従来の「仮説構築-実験計画-実験データ収集-検証」という仮説検証型スタイルは、まずはじめに大量のデータを集め、解析することによって仮説を見つけ出し、そして検証するというデータ駆動型スタイルに変わってきている。データ収集コストが劇的に下がった結果、効率のよい実験計画を立てる必要はなくなり、「はじめにデータありき」になってきているわけだ。

このような変化の中で登場したのがTOBYO&DFCそしてFLRである。どちらもインターネット上に公開された膨大な量の患者体験データに注目し、それをアグリゲートし精製抽出した上で各種医療関連エキスパートに提供することをめざしている。つまり「これから患者体験データを集めよう」という発想から「すでに公開済みの大量のデータを利用する」発想へと変わってきているわけだ。私たちのTOBYOプロジェクトでは日本語圏ウェブに存在する約2万4千サイト、一方のFLRは英語圏ウェブの16万サイトをすでに収集しているが、とにかくデータ量の確保がこれからの調査研究サービスの前提であることは間違いないだろう。質を言う前に、量の確保が優先する。

さてFLRサイトをざっと見渡しての感想だが、どちらかというとブログリサーチ・サービスに近いのではないか。独自開発のセマンティック・アルゴリズムでサイト属性を特定し、収集したテキストデータをマイニングなどで構造化するとのことだが、これらは日本のブログリサーチ各社が、多かれ少なかれすでに実施していることである。実はDFC企画段階で、私たちもブログリサーチで使われている手法を導入することを研究したことがある。だがいろいろのケースを想定してみて、どうも医療マターとこれらの手法がなじまないのではないかとの結論に至った。

たとえばデータソースの特定という基本的な問題を取ってみても、それがデータ価値のある闘病サイトかどうかを機械で判別することは難しい。健康食品、オカルトなどへ誘導する偽装サイトをはじめ、最近大幅に増えているペットの闘病サイトなどを見分けることは、人間でもだんだん難しくなってきている。またサイトオーナーの性・年齢・居住地など基本属性も、テキスト解析から特定することは難しい。次にデータ分析であるが、ブログリサーチで使われているようなテキストマイニング技術は、おおよその流行トレンド把握はともかく、まだ満足できるレベルではないと思った。FLRが具体的にどのような技術を開発しているかが注目される。

またビジネスモデルだが、FLRはB2Bモデルに徹している。TOBYOプロジェクトではTOBYOがB2CサービスでDFCがB2Bサービスと二つの顔を持っているのだが、FLRは収集した患者体験データを一般ユーザーに公開するつもりはないようだ。これはおそらく、一般公開するとB2B側のサービス価値が下がり、マネタイズしにくくなると判断しているのではないか。

ところでHealth2.0 SF 2010では、米国政府や公的機関が公的な保健医療データをどんどん公開し、ベンチャー企業がこれを新サービス開発に活用するような仕組みがアナウンスされたようだが、今後、大規模な医療関連データの共有とフローのための社会的なシステム整備が必要となるだろう。その鍵はやはりPHRということになるだろうが、患者体験ドキュメントとPHRのジョイントという方向で新しいサービス開発領域があるのではと、最近考え始めている。TOBYOもFLRも患者側の体験データを大規模に集積しつつあるが、これを大きくフローさせる仕組みが次に求められるだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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