闘病体験のフィールドワーク

私たちのパートナーである株式会社メディカル・インサイトが今月で創業二期目を迎えるようだ。まずは鈴木さん、おめでとうございます。今後も一層のご活躍を期待しています。

鈴木さんと初めてお会いしたのは昨年暮れ、たしか12月24日だったと記憶している。クリスマス・イブに突然現れたのだから、鈴木さんに「サンタクロース」のイメージをかぶせることは不自然ではない。密かに「サンタ鈴木」と呼んでいた。鈴木さんはTOBYOプロジェクトに強い関心をお持ちで、熱心なお申し出までいただき、結果として当方事業パートナーをお願いすることになったのだが、まさにTOBYOプロジェクトにとっての「サンタクロース」であった。そして、後にそのプレゼントが「DFC」であることがわかった。

当方は昨年11月頃から闘病体験データに基づくマネタイズを模索していたが、まだ概念やアイデアをあれこれ整理している段階であった。そこへまさにドンピシャの「DFC」というコンセプトを鈴木さんから頂戴した。現在、DFCはすでに開発途上にあるが、私たちだけでここまで進捗することはなかっただろう。鈴木さんに参画してもらい、とにかくTOBYOプロジェクトは長足の進歩を遂げたと思っている。

今後、このようなベンチャーとベンチャーのコラボレーションは増えて行くのではないだろうか。とにかく上下関係のない対等の関係であるから、気楽に、気兼ねせずに意見をぶつけ合うことができるのがよい。複数ベンチャー企業のコラボレーションというものは、各自の強みを束ねて強化し、ビジネス機会を広げ、知識情報を共有し相互学習するための非常に有効なモデルになり得るだろう。

さて、TOBYOプロジェクトについて昨日のエントリで「無断リンク」等の問題に少し触れた。同じようなことなのだが、TOBYOの闘病ドキュメント収集方法についてもあれこれ言われることがある。収集方法は次の三通りだが、これまで当方の手作業による収集がほとんどを占めている。

  1. 闘病ドキュメントの作者が自分で登録する
  2. TOBYO会員ユーザーが自分の気に入った闘病サイトを収録する
  3. 当方スタッフが手作業で収録する

「手作業で収集って、大変ですよねえ」と同情気味に語られることがあるかと思えば、「えっ!機械収集ではないんですかぁ」とあたかも「ローテクぶり」に失望するような声を頂戴することもある。だが、現実問題として闘病ドキュメント収録は機械では無理だ。闘病ドキュメントの疾患名。ドキュメントの分量と質。サイトとコンテンツの信頼性。偽装サイトの判別。等々。収集に伴う以上のようなチェック・ポイントを把握するためには、どうしても人間がひとつひとつのサイトを手作業で見ていく必要がある。

このようにチェック・ポイントを丹念に調べ上げることは、ある意味でほとんど調査研究活動に等しいのではないかと最近考え始めている。闘病サイトを可視化していく過程で、徐々に私たちの意識と目的は「闘病サイトを集める」ということから「ネット上の闘病ドキュメントのフィールドワーク」というものへ変わってきている。それに伴い、単に「TOBYO」ではなく、ことさら「TOBYOプロジェクト」と「プロジェクト」を付して呼ぶ機会も増えてきた。つまり「闘病ドキュメントのカタログをコンテンツとして提供するサイト」から、「闘病ドキュメントのフィールドワーク・プロジェクト」へと、私たちのTOBYOは意味変容を遂げていくような気がするのだ。

現在、TOBYOプロジェクトが可視化している闘病ドキュメントは950疾患、2万3千サイトである。おそらくこれほどまでに膨大な患者体験ドキュメントを可視化し、そしてアクセスと検索を可能にしたのはTOBYOプロジェクトが史上初ではないか。そしてここまで来ると、たとえば「日本の医療の現状はどうなっているのか」という問いに対しても、とりあえず「それはTOBYOで2万3千人の闘病体験を調べればわかる」と答えることができるかもしれない。闘病ドキュメントは、日本医療の現状を「患者の眼」を通して患者自身の言葉で記録している。患者が実際に体験した記録のこのような大規模集積は、まさに現代医療の実像と問題を可視化するものだ。TOBYOプロジェクトとは患者体験の可視化を通じて、最終的に日本医療の現状を可視化するプロジェクトであるといえるだろう。最近、そんなことを考えることが多い。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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