仮想コミュニティのポータル

Universe

今週はいくつかインタビューの予定が入った。TOBYOに関心を持っていただいて感謝感激である。ところで事前の質問リストを見ていると、やはり「どうしてTOBYOは闘病記を書く機能やコミュニティ機能がないのか」という質問があった。これはこれまで一番多く当方に発せられた質問であるが、おそらく今後も事あるごとに問われるのだろう。

何度でも繰り返す必要があるのだろうが、私たちがTOBYOプロジェクトを企画する段階で、ネット上には約3万サイトと推定される闘病ドキュメントサイトが既に存在していた。端的に言って、一から闘病体験をTOBYOサイトで書いてもらうよりも、既に存在する闘病サイトを可視化しリスト化する方が早く、しかも確実なのだ。TOBYOが闘病体験を書く機能を持たないのは、そのように判断したからだ。

次にコミュニティ機能だが、ネット上に分散して存在する闘病サイト群は、相互リンク、コメント、トラックバックなどを通じて緩い自然発生的なネットワークを作っていた。これを私たちは一種の仮想コミュニティとみなし「闘病ユニバース」と名付けたわけだ。つまりコミュニティ機能もまた、私たちがTOBYOサイトで一から作り込むまでもなく、すでにネット上に存在していたのだ。

だがそのコミュニティは、あくまでも私たちが想定した仮想コミュニティである。その構成メンバーは、自分たちがそのようなコミュニティの一員であるとは思ってもいないだろう。つまりコミュニティとしての自己認識はない。だからこのコミュニティは「あると思えばあるが、ないと思えばない」ような不確かなものである。換言すると、それはウェブという「地」の上に浮かび上がった「図」なのである。

しかし、この仮想コミュニティを可視化し、構成メンバーリストを作り、そのコンテンツを全文検索することができれば、その時点から、仮想コミュニティはあたかも実コミュニティのように機能し始めるのではないか。徐々にTOBYOプロジェクトで、私たちはそう考えるようになったのだ。

これまで「TOBYOは闘病ユニバースのインフラツール」と言ってきたが、むしろTOBYOは仮想コミュニティへ開かれた入り口であり「ポータル」であると言った方が良いだろう。ネット黎明期から15年という時間を経て、ゆっくりと自然発生的に形成されて来た約3万サイトからなる仮想コミュニティ=闘病ユニバースを、人為的に一つのサイトで一から再現することは非常に難しい。であるならば、この仮想コミュニティを実コミュニティとみなし、最大限社会的に活用するほうが得策ではないか。

普通、患者SNSをはじめとするコミュニティは、事前に策定された明確な目的のもとに設計され運営される。これに対しTOBYOプロジェクトは仮想コミュティの発見から出発し、事後的にそのポータル機能を果たしていこうとしている。これは奇妙といえば奇妙である。

しかし、15年の歳月を経て自然発生的に出来上がった闘病ユニバース。このように膨大な情報量と多様性を持つコミュニティにまさるものを、人為的かつ意図的に作り出すことはほとんど不可能かもしれない。であるならば、「奇妙なプロジェクト」の存在も許されるのではないか。ひそかにそう考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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