Health2.0の事業プレイヤーとして

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私たちは、昨年の秋頃にNPOへの移行を漠然と考え始めていた。そしてそのことをこのブログで公開もしたのだが、それは当時、「TOBYOのようなサービスは、むしろNPOのような非営利事業スタイルのほうが向いているのではないか」と考えていたからだ。だがそれから時間が経つに連れ、次第にそれら「NPO路線」は私たちの中で自然に消えていった。

どの時点でその転換点があったのかと問われると、明確に返答できない。おそらくいくつかの複数の契機があったはずだが、そのひとつは昨年末に”Data is the next Intel inside”との「2.0の原点」に回帰したことだろう。この原点回帰によって、データを起点としたマーケティング・サービス創造という方向が明確になった。そしてそのことはやがてDFCへと繋がっていくわけである。当時、まだHealth2.0のビジネスモデルは多分に不透明であったが、今にして思えば、PatientsLikeMeとSermoの成功を徹底的に分析しておけば、「データ起点」の方向にビジネスモデルがはっきり見えていたはずなのだ。

思い返せば私たちがTOBYOをローンチした時分、自分たちのビジネスモデルはまだ不分明であり、せいぜい「広告モデル」くらいしか人に説明できるものを持ってはいなかった。だが、医療をテーマとしたサービスで大量にアテンションを稼ぐのは容易ではない。今日、日本でウェブ広告クライアントが求めるサイト・パフォーマンスは、最低で月間1000万ページビューと言われており、これを達成している日本の医療関連サイトは一つしかない。そしてそのサイトでさえ十分に広告を獲得できていない現実がある。つまり、かなり戦略的な特化型コミュニケーション活動を計画しているクライアント企業でないと、医療関連サイトが広告を獲得することはむつかしいのだ。

同時に日本の疾病患者数を見れば、たとえば全国の年間入院患者総数は約139万人(厚労省「患者調査」、平成20年)であり、これをウェブサイト・アクセス総数の一つの基数と考えるならば、他の分野のように月間ページビューを億単位で稼ぐことなど至難の業である。ウェブ医療サービスについて、まずこのあたりに誤解があるのだ。誰しも、医療情報は普遍的で大きなニーズを有するものだと考えがちだ。それは事実には違いないのだが、事実の一端を指摘しているに過ぎない。実際には医療情報ニーズというものは、きわめて必要不要がはっきりしておりその量的広がりも限定的なのだ。つまり病気の当事者以外、病気や闘病に関心をもつことは稀である。自分や自分の家族・友人・知り合いが胃がんにかかっていない人は、胃がんの情報をウェブで調べようとは絶対にしないだろう。

TOBYOが最初から「細分化した個別病名」にこだわってきたのも、「当事者(闘病者)」というターゲットを明確化するためだった。当事者は当事者であるがゆえに、細分化された個別病名に関する具体情報を求めており、その個別特化した情報ニーズに応えられなければならない。だが従来の医療関連ウェブサイトは、ここを「健康」とか「病気」など一般的に括った一般情報しか提供しておらず、当事者ニーズに対応できていないと私たちは分析していた。

しかし、量的な大きさが限定されているものをさらに細分化していくと、それは広告のようなマスを前提としたマーケティングに適応できなくなる。この問題を、たとえばNPOのような非営利事業スタイルで解決できるのではないかと考えたわけだ。だが、今にして思えば、正直言ってこれはずいぶん非論理的なジャンプだった。おそらく、無意識のうちにその論理的キャズムを「善意」というもので架橋しようとしていたのだろうが、やがてそのことを反省する時が訪れたのである。

ウェブのみならず医療関連サービスの創造過程においては、多かれ少なかれ以上のような問題があると思われる。だが医療の現実は「善意」だけで乗りきれるものではない。そこをごまかしてしまうような稚拙で狭い、きれいごとの医療観から決別し、しんどくても真に現実を見据えた事業を手探りで始めるしかないのだ。私たちはHealth2.0の事業プレイヤーとして社会的価値を創造することを目指しており、「善意」を唱えて寄付を集める求道家ではないのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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