医療へ向けられた新しい視線

佐々木俊尚さんの「ネットがあれば履歴書はいらない」(宝島社新書)には、医療に関するネット利用の問題もいくつか取り上げられていて興味深い。たとえば「プライバシー問題」などについても、「ネット上に自分の病気を公開することのメリット」を強調するなど、世界的な新しい動向を踏まえた記述があり、これまでの医療関係類書にはない「ネット的」な視点が随所に見られ好感を持った。

同書に紹介されたロバート・スコーブルの“Health privacy is dead. Here’s why:”はこのブログでも一年前のエントリ「医療プライバシーは死んだ」 で取り上げたが、たしかに今日のネットではプライバシーを公開するメリットのほうがデメリットを上回る事態が現実のものとなってきている。現にPatientsLikeMeなどはこのような情況を先取りして立ち上げられたサービスであり、従来の硬直的なプライバシー観のもとでは許容されることさえなかったはずだ。同書に指摘されているように、「プライバシー」は普遍的概念ではなく歴史的所産であり、時代の要請によって変化していくものだ。

同じようにリアル本「闘病記」という概念も、ウェブ上にどんどん自分の情報を公開するライフログのような新しい動きの中で陳腐化していったのである。自分の体験をリアル本や「作品」という閉じられたパッケージに封印するのではなく、ブログや個人サイトやツイッターから公開すれば、ロバート・スコーブルが述べたような具体的なメリットを享受できるのである。このようなネット的な新しい事態を理解してそこに対応しようとするのか、それとも古い「闘病記」という概念に閉じこもるのか。このあたりが医療情報サービスの一つの分岐点になるのかもしれない。

リアル闘病本が闘病体験のメインメディアであった時代は、すでに終わっているのだ。

三宅 啓 INITIATIVE INC.


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