ウェブ医療サービスの事業成立与件

health2.0

今年2010年は、2008年2月アルファ版からスタートしたTOBYOにとって、いよいよ挑戦の年となる。過去1年10ヶ月の間に、TOBYOは闘病ユニバースに存在する830疾患、1万8600サイトを可視化し、そのうち1万4000サイトが検索可能となった。闘病ユニバース全体はおよそ3万サイトと推定されるから、既にその60%が可視化されたわけだ。

このようにTOBYOプロジェクトの基本条件は整備され、ようやく次のステップに進むわけだが、昨年末に公開したTOBYO事業スキームをもう一度整理し直してみると次のようになる。

◆ミッション:闘病体験の可視化◆

ネット上のすべての闘病体験ドキュメントを可視化しアクセス可能にする

◆ビジョン:伽藍からバザールへ◆

ネット上に蓄積された闘病者の集合知を活用することによって、医療を闘病者・消費者ニーズから見つめ直し、参加型医療に変えていく。

◆三つの戦略レイヤー◆

データ → サーチ → マーケティング

◆事業戦略:プロフェッショナル・サービス◆

闘病体験ドキュメントとバーティカル検索エンジンを土台にして、コアデータから「リサーチ&コミュニケーション」事業を切り出す

ウェブ医療サービス事業というものは、単純にコンシューマ・サービスだけで動かせるものではないと私たちは考えている。以前にも触れたことがあるが、医療情報提供サービスは消費者の普遍的な医療ニーズに立脚するものとはいえ、それらニーズは爆発的にブレイクするような性質のものではない。消費者の医療ニーズは「要、不要」が極めて明確であり、不要な情報を求めることはまずない。健康な者は闘病情報を進んで求めることはないし、患者が自分の疾患以外の疾患情報を求めることもない。つまり他の分野の市場とはちがい、医療においては、説得や誘導によって「需要を喚起する」ことが難しいのだ。もっと言えば、「需要を生み出す」というマーケティング所作が医療と親和的ではないのだ。

だから、はじめから「ウェブ医療サービスは一挙に爆発的にブレイクするようなものではない」とでも考えておく方が良い。通常の商用サイトのように、集客のための手段(SEO、広告など)を徹底的に講じてアクセスを高め、媒体価値を高めるというようなモデルは、医療サービスに関する限り当てはまらないと思う。

昨年、日本初の本格的な闘病SNSサイトをめざしたオンライフが撤退した。これは非常に残念なことであったが、彼らの総括ドキュメントには「サービスが伸びていなければ、いくら楽しく快適に働いていても、モチベーションを常に高く維持することや、メンバーが自身の急成長を実感することは難しい」と率直に記されていた。繰り返しになるが、他分野のサイトにくらべ、医療分野のウエブサービスが短期間に爆発的にブレイクすることはない。そのことをオンライフの人たちはある時点で気づき、見抜き、そして見切ったのではないかと思う。それはそれで英断であると思う。

一口に「消費者の医療ニーズ」といっても、その「普遍性」に幻惑されてはならない。むしろそのニーズの特殊性を徹底的に考察し抜くことによって、たとえば米国のPatientsLikeMeは患者SNSの中で唯一成功したのである。「医療は万人の求めるものだ」という普遍化とは逆に、医療ニーズの特殊性・個別性を洞察することによって、はじめてウェブ医療サービスは事業として成立できるのだと思う。ちなみに「万人向けサービス」も全く不可能ではないが、それを成立させるためにはRevolutionHealthのような、半端でない巨大投資が必要になるはずだ。

ところでTOBYOは大別すると、コンシューマ・サービスとプロフェッショナル・サービスの二つのサービスから成る。コンシューマ・サービスでマネタイズを考えると、それは広告モデルになるのだろうが、そこには限界があると思う。フリーのコンシューマサービスだけで完結させてはならず、そこに隣接した有料のプロフェッショナル・サービスが必要になる。TOBYOプロジェクトは、最終的にそのことを目指している。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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