固有名詞で医療を可視化する

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従来、具体的な病院や医師の評価に関する情報は、自分の周囲のごく少数の限られた人からのクチコミ情報によって細々と伝えられていた。医療を選択するための十分な情報がなかったのだ。インターネットはこれを変えた。掲示板、個人サイト、ブログ、SNSなどで、闘病者は自分の医療体験を続々と公開し始めた。いつのまにか、病院や医師や治療法についての情報はネット上にあふれだしたのだが、これら情報を吟味し、医療選択のために提供するような方法は確立していなかったのだ。

TOBYOプロジェクトでは、闘病体験に限定した特化型検索機能を開発し公開している。これによって消費者・闘病者はスパムやゴミを除去した集合知から、求める医療体験情報を探すことができる。だが、この集合知に病院名、医師名、薬品名など固有名詞が十分に含まれていなければ、ユーザーは検索時に事実を特定することはできない。私たちがおよそ2万件近い闘病サイトの現状をチェックした限りでは、固有名詞の明記はまだ不十分であるとの印象である。

ネット上の闘病ユニバースには、さまざまな闘病体験が渾然一体となり蓄積されているが、これら混沌とした状況を晴れ上がらせ、体験された事実群を可視化させるものは固有名詞にほかならない。しかし、日本人特有の遠慮とか配慮があるのだろうか。自分が受療した病院名や医師名を明記する体験ドキュメントは思ったほど多くはない。

情報を探す段階では特定の病院や特定の医師など、できるだけ固有名詞を持った具体的な情報が欲しいのだろうが、実際に自分が今度は情報を公開する段になると、ある種の「自己抑制」が働くようだ。

だが、本来こんな自己抑制は無用である。固有名詞を失った事実は、もはや事実ではない。事実としての裏付けを失ってしまえば、闘病体験は単なるエピソードや物語へと矮小化されてしまうだろう。そして、このような非事実化したアネクドートをいくら積み上げてみても、消費者・闘病者の医療選択に役立つ情報にはならないのだ。

これから闘病体験を公開しようと考えている闘病者にお願いしたい。あなたが体験した病院、医師、薬品などの固有名詞を、是非とも明記していただきたい。そのことによって次の闘病者の医療選択に寄与できるだけではない。そのことによって日本の医療改善に寄与することにもなるのだから。

photo:Leigh Blackall , We must be free

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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